和菓子のアン

『和菓子のアン』は、坂木司による日本のミステリー小説であり、同作を第1作とするシリーズの名称です。作者の坂木は、デパ地下を舞台にした和菓子ミステリーという、これまでになかった設定に挑戦したと語っています。

概要

物語の主人公は、進路も定まらないまま高校を卒業した梅本杏子。彼女が、ひょんなことからデパ地下の和菓子店「みつ屋」でアルバイトを始めることから物語は動き出します。

和菓子業界の難解な専門用語、個性的な顧客や同僚、そして産業スパイ疑惑や同業者の不祥事といった出来事に翻弄されながらも、杏子は和菓子を通じて人々のプライベートに触れ、様々な経験を重ねていきます。同僚との連携や、お客様へのアドバイス、商品の販売を通して、彼女は少しずつ成長していくのです。

『ジャーロ』連載時には野間美由紀が挿絵を担当し、その後、佐久間真人に引き継がれました。坂木は、和菓子屋を舞台にした理由として、推理に十分な時間があり、華やかで見劣りしないこと、そして近藤史恵の『タルト・タタンの夢』のような洋食系小説に対する反発心を挙げています。

2013年7月には、『和菓子のアン』セカンドシーズンとして『ジャーロ』で「女子の節句 前編」の連載が再開されました。さらに2016年3月には、『アンと青春』が刊行され、『坂木司リクエスト! 和菓子のアンソロジー』に収録された『空の春告鳥』が第1話として収録されました。

この『アンと青春』では、桜井が既婚者となり、梅本が新たな人間関係や出来事に直面します。また、書籍レビューサイト「読書メーター」では、単行本版発売後に、サイン入り献本が抽選で10名に贈られるキャンペーンが行われました。

『アンと青春』発売後には、『ダ・ヴィンチ』が『和菓子のアン』と『アンと青春』を「アン」シリーズとしてまとめ、坂木自身も『和菓子のアン』を「1巻」と数えています。2017年6月には、『和菓子のアン』大活字本版が発売され、2017年9月からは電子書籍版へと移行した『ジャーロ』で『和菓子のアン』第3弾の連載が開始されました。

あらすじ

和菓子のアン

将来のことを何も考えずに高校を卒業した梅本杏子は、たまたま入ったデパートで出会った和菓子店「みつ屋」でアルバイトを始めます。最初は不安でいっぱいだった杏子ですが、個性的な店員たちとの出会いや、お客様との交流を通して、少しずつ成長していきます。

泥酔客の対応で自信を失いかけた杏子ですが、同僚の立花との対話で誤解を解き、これからもみつ屋で働き続けることを決意します。

アンと青春

京都への旅行後、杏子は「金の林檎」という洋菓子店を思い出しつつ、「K」という店で、以前金沢の催事場で見た販売員と再会します。彼女は、以前に会った時とは違う何かを感じ、胸が騒ぎます。

アンと愛情

成人式を迎えた杏子は、同級生に連れられて振り袖を選びに行きます。そこで、思いがけない出会いが…。

アンと幸福

正社員になることに興味のなかった杏子がついに正社員に。和歌山のお菓子のお祭りでの出来事も描かれています。

登場人物

みつ屋の店員

梅本杏子（うめもと きょうこ）
本作の主人公。18歳。身長150センチ、体重57キロと小柄でぽっちゃりした体型。高卒。恋愛経験が少なく異性との会話が苦手。
周囲からは「ペコちゃん」「大福餅」などと言われ、特に立花に「大福餅」と言われた際は、体型を揶揄されたと誤解し、ショックを受けた。しかし、実際は「大きな福」という意味で褒め言葉だった。
立花との交流を通して、徐々に仕事への意識や働く意味を見出していく。男性恐怖症だが、仕事での接客には問題がない。鈍感な一面も持ち合わせている。

桜井（さくらい）
みつ屋のアルバイト。大学在学中の遅番担当。梅本より1ヶ月早く入社。元ヤンで言葉遣いが荒く、時折地が出てしまう。エプロンには言葉遣いに関するメモを忍ばせている。困った客を「個人情報保護」を理由に脅して梅本を助けたことがある。『アンと青春』では既婚者。

立花早太郎（たちばな そうたろう）
みつ屋の社員。和菓子職人を目指して修行中。20代のイケメンで、丁寧な接客で顧客からの信頼も厚い。プライベートでは乙女系男子で、感性が独特。梅本の不用意な発言で傷つくこともある。橘にちなんだ菓子木型を持っている。

椿はるか（つばき はるか）
みつ屋の店長。客の悩みや購入目的を言い当てる能力を持つ。株やギャンブル好きで、一喜一憂している。普段はだらしない格好だが、仕事に対する責任感は強い。過去に「型風」という菓子木型を作った職人と関係があった。

みつ屋の客

OL
上生菓子を大量に注文する女性。

杉山（すぎやま）
シックな服装の老婦人。みつ屋の常連客。

松本三太（まつもと さんた）
派手な衣装で、最初はみつ屋の従業員を怖がらせたが、後に和菓子に関する知識を披露する。立花を「早太郎」と呼ぶ。

椎名亜佐美（しいな あさみ）
遠方の相手から渡された「辻占」の謎を解くためにみつ屋を訪れた。

東京百貨店デパ地下内

楠田（くすだ）
酒売り場担当。東京百貨店で長く働いているベテラン。梅本と個人的な親交を持つ。グループホームに弁当を届けている。

桂沢（かつらざわ）
洋菓子店「金の林檎」の派遣社員。店の不祥事に悩み、椿に相談した。

柏木（かしわぎ）
梅本が金沢の催事場で出会った販売員。後に「K」のパティシエになる。梅本と気が合う。

柘植（つげ）
洋菓子店「K」の店長。柏木によく声をかけている。

フロア長（フロアちょう）
デパ地下フロアの責任者。饅頭好き。

東京百貨店地上階

五月（さつき）
化粧品コーナー担当。綺麗な顔立ちだが、実年齢より若く見えるため「魔女」と呼ばれている。

みつ屋の和菓子

みつ屋では、定番の和菓子の他に、季節ごとに限定の上生菓子が販売されます。これらの和菓子は、事件解決の糸口になることもあります。

定番・通年

松風、鹿の子

季節の上生菓子

5月：兜、おとし文、薔薇
6月：青梅、水無月、紫陽花
7月：星合、夏みかん、百合
8月：清流、鵲、蓮
9月：光琳菊、跳ね月、松露
12月：柚子香、田舎家、初霜
1月：辻占、早梅、福寿草、風花
2月：蛤、桃、曲水
5月：つつじ、鯉のぼり、花菖蒲
10月：山路、焚き火、桃山

舞台設定

東京百貨店

主人公が働くデパート。10時から20時まで営業。

地上9階、地下2階建て（従業員用は地下4階まで）。
8階と9階の中二階は従業員専用スペース。
地下1階はデパ地下で、食品、酒売り場がある。
従業員は、透明なビニールバッグに貴重品を入れて持ち歩く。
業者向け配送には「ハニービー・エキスプレス便」や「超エクスプレス便」が利用されている。
閉店後には、売れ残りの格安販売が行われる。

東京百貨店テナント

みつ屋
関東系の練り切りを使用。特別な日にのみ関西系のこなしを使う。

金の林檎
洋菓子店。賞味期限の偽装や売れ残りの保管などの問題があり閉店。

K
「俺の」ブランドで男性向け洋菓子を販売する店。

八尾フルーツ
果物屋直営のジュース屋。

梅本の地元商店街

各店舗が営業している。

洋菓子かとれあ
梅本が寄ろうとしたケーキ屋。

モードブティック・ラ・メール
おばちゃん系の服が揃うブティック。

新井クリーニング
梅本の母親が働くクリーニング店。

郊外

河田屋
松本が勤務する和菓子屋。立花の修行先。

金沢21世紀美術館
「スイミング・プール」が展示されていた。

書誌情報

『和菓子のアン』光文社
単行本：2010年4月25日第1刷発行
文庫：2012年10月20日第1刷発行
大活字本：2017年6月10日発行（上下巻）
『アンと青春』光文社
単行本：2016年3月20日第1刷発行

他言語版

『和菓子のアン』は韓国語版と中国語版も出版されています。

アンソロジー

『坂木司リクエスト! 和菓子のアンソロジー』光文社
単行本：2013年1月20日第1刷発行
文庫：2014年6月20日第1刷発行

メディアミックス

コミカライズ

猪狩そよ子作画で漫画化。
白泉社〈花とゆめCOMICS〉、全3巻

イベント

発売記念茶和会、和菓子イベント、全国銘菓展などが開催。

評価

読者層を広げ、多くの書店員や読者から支持されている。
ミステリー要素だけでなく、主人公の成長物語としても評価が高い。
様々なメディアで取り上げられ、ベストセラーを記録した。

受賞歴

2013年静岡書店大賞「映像化したい文庫部門」大賞を受賞。

脚注

注釈、出典、参考文献など

関連項目

オトメン（乙男）
符牒
干菓子
旧暦
オトシブミ
フォーチュン・クッキー
一見さん
流し雛
ファミリーマート
五色生菓子
日本全国の銘菓
小池喜孝

外部リンク

和菓子のアン（単行本） - 読者メーター
虎屋文庫
たねや新宿小田急店
菓匠「雅庵」

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