丁零

丁零：モンゴル高原の遊牧民族

丁零は、紀元前3世紀から8世紀にかけて、モンゴル高原北部や南シベリア、バイカル湖周辺に居住したテュルク系遊牧民族です。様々な名称で史書に記されており、丁令、丁霊、勅勒、高車、鉄勒などと呼ばれました。これらの名称は、時代や地域、記述する史書によって異なっています。

名称の由来

丁零の名称の起源は諸説あります。有力な説としては、モンゴル語で「車」を意味する「telegem」や「terege」の音訳であるという説があります。また、突厥碑文に現れる「Tölös」との関連性も指摘されています。さらに、突厥語の「Türk」（テュルク）に由来するという説や、突厥に服属したことから「Tiräk」（ティレク：扶助者）に由来するという説も存在します。学者のP.A.Boodbergは、古アルタイ語の「車」を意味する語彙との関連性を指摘し、「高車」という名称への信憑性を与えました。

歴史

『山海経』における記述

丁零に関する最古の記述は、『山海経』海内経に見られます。そこには、「釘靈之國」という記述があり、その民は膝から下が毛に覆われ、馬のような速さで走る、と記されています。この記述は、後の史書における記述と比較検討することで、丁零の初期の様子を窺い知ることができます。

漢代

漢代には、匈奴の支配下にありました。しかし、匈奴が漢と烏孫の連合軍に敗北し、大雪による災害に見舞われたことを契機に、丁零は匈奴から離反し、たびたび匈奴に侵攻しました。西匈奴の郅支単于の時代には、烏孫、堅昆とともに併合され、堅昆の地に本営が置かれました。後漢時代には、北匈奴の衰退に乗じて、南匈奴、鮮卑、西域諸国とともに北匈奴を圧迫し、北匈奴の西方への移動を促しました。鮮卑の檀石槐がモンゴル高原を統一すると、丁零の南下は阻まれました。

三国時代

三国時代の『魏略』西戎伝には、バイカル湖周辺の丁零に加え、康居の北（カザフステップ）にも丁零が存在したことが記されています。これは、丁零が広い地域に分布していたことを示唆しています。この二つの丁零の関係性については、古くから議論されており、近年も研究が続けられています。

五胡十六国時代

五胡十六国時代には、丁零族の翟氏が台頭しました。翟氏は代々康居に住んでいましたが、後趙に臣従し、後に前秦に服属しました。翟斌は前秦に反旗を翻し、後燕の慕容垂と合流しましたが、慕容垂に斬首されました。翟氏の勢力はその後も続き、翟遼は翟魏を建国しましたが、後燕によって滅ぼされました。その後も、北魏支配下において、上党丁零、楡山丁零、西山丁零などの勢力が北魏に反乱を起こしました。

高車

南北朝時代には、モンゴル高原に進出した丁零は、中国人（拓跋氏政権）から高車と呼ばれるようになりました。これは、彼らが使用した車両の車輪が高大であったことに由来すると言われています。高車は、柔然の支配下にありましたが、阿伏至羅は柔然から独立を果たし、阿伏至羅国を建国しました。しかし、柔然に敗れて滅亡しました。

鉄勒

突厥と同時代に存在したテュルク系諸民族は、鉄勒と呼ばれていました。鉄勒は、突厥の興亡とともに、独立と服属を繰り返しました。やがて九姓と呼ばれるようになり、その中から回紇が台頭し、東突厥第二可汗国を滅ぼすなど、重要な役割を果たしました。

結論

丁零は、長きにわたりモンゴル高原や南シベリアで勢力を保ち、歴史の大きな流れの中で重要な役割を果たした遊牧民族でした。その名称や勢力範囲は時代によって変化しましたが、テュルク系民族としてのアイデンティティを維持し、高車や鉄勒といった後継勢力へとつながっていったと考えられます。今後の研究によって、さらに丁零の実像が明らかになることが期待されます。

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