土持氏

土持氏（つちもちし）とは

土持氏は、平安時代末期から戦国時代前期にかけて、日向国北部を中心に勢力を有した一族です。現在の宮崎県延岡市周辺を拠点とした縣（あがた）土持氏と、高鍋町付近を活躍の場とした財部（たからべ）土持氏が特に有力でした。

家紋

土持氏の家紋としては、「三ツ割若松」や「唐花」が挙げられることが多いですが、原典は不明です。一方で、子孫には左三つ巴の変化系の家紋が見られ、「土持七頭書付」という資料には、元々は「亀甲に桐」紋であったものが、室町幕府の要請により「左巴」と「二引き両」に改められたとされています。この資料には「唐花」の記載はありません。
「唐花」紋との関連を考える場合、この紋が公家である藤原氏北家に多く見られることが挙げられます。宮崎県指定有形文化財の「金剛寺文書」には、1404年頃に土持長栄が花山院殿夫人に水田を寄進した記録があり、この花山院殿夫人は藤原北家の系列です。しかし、花山院家の家紋は唐花ではありません。

歴史

土持氏の歴史は古く、平安時代には日向国の荘園領主としてその名が確認できます。縣土持氏については、19世紀に白瀬永年によって編纂された『延陵世鑑』などにその来歴が記されています。一族は、物部姓田部氏の一族から分かれたとされています。

土持氏は宇佐八幡宮の社人でもありました。日向国北部の臼杵郡を中心に広く開発された宇佐宮領の弁済使、あるいは臼杵郡司として勢力を拡大し、12世紀以降は、日向の有力氏族である日下部氏との縁戚関係を強めることで、日向の在国司職や日下部氏の権益を全て獲得しました。土持の名の由来は、欽明天皇32年（570年）に宇佐八幡宮を造営する際、田部宿禰直亥が土を袖でくるんで運んだところ、それが崩れなかったことを欽明天皇に褒められ、「土持」の姓を賜ったという伝承があります。

一族の最盛期は、太郎土持宣綱を当主とする平安末期でした。土持七頭（ななかしら）と呼ばれ、縣・財部・大塚・清水・都於郡・瓜生野・飫肥に勢力を誇りました。鎌倉時代には、幕府御家人として宇佐宮荘園の地頭職を拝しました。建久8年（1197年）の「日向国図田帳」によると、宣綱の地頭職は、臼杵郡、児湯郡、那珂郡、宮崎郡に広範囲に及んでいたことが分かります。

建武の新政の頃（1336年）、一族の国綱・惟綱・諸綱・国栄らが京に出向いていた際、足利尊氏側として参戦し、国綱・惟綱は大渡で、諸綱・国栄は瀬多・三条河原合戦で戦死しました。その後、足利尊氏から友綱に瓜生野西別府を、国栄の子である久栄に縣庄の半分地頭職が与えられました。これにより、土持宗家は「縣土持家」として成立しました。

土持氏の歴史を語る上で、伊東氏との関係は非常に重要です。当初、日向に地盤を持たなかった伊東氏は、土持氏と婚姻関係を重ねることで日向に浸透しました。一方、土持氏も有力な武将を必要としていたため、伊東氏との関係を歓迎しました。特に、伊東祐立・祐堯親子はいずれも土持氏の娘を妻とし、祐堯の長女は土持左衛門堯綱の妻に、祐堯の嫡男・祐国は土持弥次郎是綱の娘を妻としています。

南北朝時代に入ると、観応の擾乱で日向守護職であった畠山直顕が足利直義側についたため、土持氏も一族間で分裂が生じました。本家は双方武家方として協力しながら、反乱分子の鎮定に奔走しました。しかし、今川了俊の下向に伴い、島津氏久が離反すると、土持氏は島津氏と対峙することになりました。この際、了俊は功績のあった方に日向守護職の地位を与えるかのような姿勢を示し、両氏を競争させようとしました。

競争関係を持たされた両氏の関係は冷却化し、伊東祐堯が勢力を拡大するにつれて、両氏の関係は険悪化していきました。惣領である縣土持氏は、井上城・西階城・松尾城と次々に城を築き、縣地方で勢力を固め、伊東氏に対抗しました。土持氏全体としても伊東祐堯に一門の子を養子として送り込むことを目指しましたが、失敗に終わりました。

1451年（宝徳3年）、伊東祐堯が幕府から日向平定の下知状を得ようとしたため、土持氏との関係は完全に崩壊しました。1457年（長禄元年）には、財部土持氏の土持影綱と縣土持氏の土持宣綱が小浪川の合戦で伊東祐堯と戦いましたが、財部土持氏の有力武将である土持金綱などが戦死し、敗北しました。財部土持氏は没落し、他の土持氏も島津氏や伊東氏などに吸収されていきました。

島津氏の記録によると、島津貞久時代には土持栄定（大隅守護代）・栄幽（日向守護代）が、島津氏久時代には土持栄勝が、島津勝久時代には土持政綱がそれぞれ家老職を務めていました。これらの人物は、一族本流の中には見ることができませんが、土持栄勝は縣土持氏5代当主土持国綱の直系であり、応永・永和の頃の人物として記録に残っています。特に注目すべきは「大隅守護代職」であり、この職は通例、その国の在地の有力者が任じられることから、財部土持氏が大隅の有力者であったと考えられます。

残った宗家である縣土持氏も、伊東氏に対抗するため、豊後で勢力を拡大していた大友氏に臣従し、島津氏とも同盟を結び、戦国時代後期まで命脈を保ちました。しかし、1577年（天正5年）に島津氏が日向に侵攻し、伊東氏を敗走させると、大友氏と島津氏の直接対決となり、1578年（天正6年）には、島津氏を迎え撃つために日向入りした大友宗麟によって、当主である土持親成が松尾城で攻め滅ぼされ、700年の歴史を持つ名門縣土持氏は滅亡しました。

江戸時代には、土持氏は概ね島津氏家臣としていくつかの家が存続しました。島津氏の家臣団の記録である『本藩人物誌』や『諸郷地頭系図』には、土持新八栄貞などの名前が確認できます。また、幕末の薩摩には、西郷隆盛の義兄弟である土持政照や、薩摩藩外城部隊の隊長を務めた土持雄四郎など、土持姓の志士が見られます。

系譜

土持氏の系譜は複雑で、大塚・清水土持氏は縣土持氏から、飫肥・瓜生野土持氏は財部土持氏から派生したとされています。都於郡土持氏の出自は不明です。系譜にはあえて当主やその順序は記載されていません。縣土持氏の当主が全体の惣領であったものの、時栄・栄勝の時代には大塚土持氏が本拠であり、また栄勝が重要な役職にあったため、その時点での惣領家は大塚土持氏であったと考えられています。

土持栄勝に関しては、1384年に今川了俊が大塚（大墓）別府を本領として安堵した文書が残されており、「大塚土持氏」と呼んで差し支えないと考えられます。

また、永徳年間（1381～84年）には、縣領主・宣弘が末子の染を蓬莱山城（現宮崎市大塚町城ノ下）城主としたことで宮崎土持氏が始まったという記述がありますが、系譜上誰に該当するのかは不明です。城の所在地からすると、この宮崎土持氏は大塚土持氏と同義である可能性が非常に高いと考えられます。

脚注

関連項目
土持神社
外部リンク
土持氏
土持（姓）)
土持（ち）)

土持氏の歴史は、日向国における有力氏族の盛衰を物語る上で、非常に重要な存在です。その興亡は、中世日本の歴史を理解する上で欠かせない要素となっています。

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