土肥謙蔵

土肥謙蔵

土肥謙蔵（どひ けんぞう）は、文政10年（1827年）に生まれ、明治33年（1900年）3月20日に没した、江戸時代後期から明治時代にかけての儒学者、鳥取藩士、政治家です。旧名は田村晋三、号は石斉、別名として土肥實匡（さねまさ）も名乗りました。安政元年（1854年）に藩儒であった土肥氏の養子となり、土肥氏の家系は桓武平氏良文流で、源頼朝の武将であった土肥実平の一族とされています。

経歴

土肥謙蔵は、因幡国鳥取藩の藩士として、卓越した儒学者としての才能を発揮しました。藩の御儒者として江戸学問所に勤務し、御居間講釈や池田慶徳夫人に進講を行うなど、藩内での信頼も厚く、その学識の高さを示しました。また、鳥取藩の周旋方頭取として尊皇攘夷運動にも積極的に関与しました。

明治維新後、土肥謙蔵は木戸孝允、西郷隆盛らと共に明治維新政府の徴士参与に選ばれました。その後、内国事務局判事、刑法官判事、甲府県権知事を経て、甲府県第二代知事、そして山梨県初代県令に抜擢され、政治家としての才能も開花させました。さらに、1890年には元老院議官にも就任し、中央政界でも活躍しました。

土肥県令と大小切騒動

土肥謙蔵は、山梨県令時代に「大小切騒動」という大きな問題に直面しました。この騒動は、江戸時代から続く金納税制である大小切税法の廃止が発端となり、田安領一揆を引き起こしました。当時、権知事であった實匡は、政府民部省から派遣された監督大佑塩谷良翰と共に、両者の間を仲介し、田安家に自主的な領地返上を約束させました。これにより、1870年5月に田安領は甲府県に編入され、この一連の騒動は「御一新」として称えられ、實匡は名君として評価されるようになりました。

しかし、1872年には再び大小切騒動が発生しました。県庁には一揆勢を鎮圧する兵力がなかったため、陸軍省に出兵を要請しました。同時に、一揆勢には訴えを認める黒印状を与え、融和を図りました。一揆勢の大部分は帰還しましたが、一部は打ち壊しを行うなど混乱は収まりませんでした。8月末に兵が到着すると、土肥県令は村役人らを恵林寺に集め、黒印状を没収し、一揆の指導者や参加者を厳しく処罰しました。騒動の収束のため、県庁広報誌である『峡中日報』（後の山梨日日新聞）を県民に読み聞かせる新聞解話会を開催し、人々の心を掌握しようと努めました。これにより甲斐では一揆は終息しましたが、後任の県令・藤村紫朗の県政に反対する動きとして自由民権運動が起こる要因となりました。

大小切税法廃止による税負担軽減のため、土肥謙蔵は巨摩郡日野原（現北杜市）の開拓などを計画しましたが、体裁を重んじる明治政府は、1873年1月24日に實匡に騒動の責任を取らせる形で免官処分としました。しかし、その免官は県民に惜しまれました。土肥謙蔵が考案した開拓事業は、後任の藤村紫朗知事によって殖産興業政策として推進されました。退官後は、鳥取藩史の編纂にも従事しました。

栄典

土肥謙蔵は、その功績により以下の栄典を受けています。

1890年6月19日：従四位
1900年3月19日：正四位

土肥謙蔵は、儒学者、藩士、政治家として、多岐にわたる分野でその才能を発揮し、特に山梨県令時代には、県民との対話を重視しながら困難な問題の解決に取り組み、その手腕と人格は今もなお語り継がれています。

参考文献

歴代知事編纂会編『新編日本の歴代知事』歴代知事編纂会、1991年。
秦郁彦編『日本官僚制総合事典：1868 - 2000』東京大学出版会、2001年。
* 『山梨百科事典』増補改訂版、山梨日日新聞社、1989年。

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