土肥実平

土肥実平：頼朝を支えた相模の重鎮

土肥実平は、平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活躍した、相模国を拠点とした有力な武士です。桓武平氏良文流中村宗平の子として生まれ、相模土肥氏の祖であり、小早川氏の祖とも伝えられています。

相模国の有力者

実平は、相模国の有力豪族・中村氏の一族でした。現在の神奈川県足柄下郡湯河原町および真鶴町周辺の土肥郷を本拠とし、早川荘預所を務めていました。父や弟の土屋宗遠と共に、「中村党」と呼ばれる武士団を率い、相模国南西部で大きな勢力を持っていました。その居館は、現在のJR東海道本線湯河原駅付近、城願寺周辺にあったと推測されています。

源頼朝との出会い

『曽我物語』には、安元2年（1176年）の出来事が記されています。伊豆奥野での河津祐泰と俣野景久の相撲の判定をめぐる争いに、長老として実平が仲裁に入ったという記述があり、当時、相模・伊豆両国の武士社会において、実平が重要な役割を担っていたことが伺えます。

治承4年（1180年）、源頼朝が挙兵すると、実平は嫡男の遠平ら中村党を率いて頼朝に合流しました。相模・伊豆の有力武士団である鎌倉党や工藤党が内紛を起こす中、中村党は実平の指導の下、結束して頼朝を支えました。この一致団結が頼朝の信頼を勝ち得る大きな要因となりました。

石橋山の戦いで頼朝が敗北し、僅か7、8騎で逃亡する際にも、実平は頼朝に付き従っていました。『愚管抄』には、箱根山で自害を覚悟した頼朝に、実平が自害の作法を伝授したと記されています。『吾妻鏡』には、頼朝と共に逃亡していた加藤景員や宇佐美祐茂に対し、実平が敵の目を逃れるために分散して逃げるよう説得したとあります。その後、実平の計略によって、真鶴から房総半島へ脱出した頼朝は、千葉氏や上総氏らの協力を得て反攻を開始し、関東から平家勢力を駆逐することに成功しました。

頼朝への貢献

富士川の戦い、常陸国の志田義広討伐など、実平は頼朝の多くの戦いに従軍しました。『吾妻鏡』には、奥州から来た源義経を頼朝に引き合わせたこと、また、頼朝に降伏した梶原景時を取り成したことも記されています。

鎌倉幕府での活躍

寿永3年（1184年）の源義仲討伐（宇治川の戦い）では従軍し、合戦後は大江山に派遣され、京の入口を守りました。同年2月の一ノ谷の戦いでは源義経の軍に加わり、勝利に貢献しました。三草山の戦い後には、義経軍と共に一の谷の西の手に進軍し、戦いを勝利に導きました。その後、吉備三国の惣追捕使（守護）に任じられ、山陽道を守り、源範頼の進軍を支援するなど、頼朝からの信頼が厚かったことがわかります。鶴岡八幡宮の造営にも貢献したと伝えられています。

寿永4年（1185年）の壇ノ浦の戦い後には、長門国と周防国の惣追捕使となり、長府に居城を構えました。文治5年（1189年）の奥州合戦にも参加しています。建久元年（1190年）の頼朝の上洛の際には、右近衛大将拝賀の随兵として選ばれ、供奉を務めました。

晩年と最期

『吾妻鏡』の建久2年（1191年）7月18日条に厩の上棟奉行をしている記述を最後に、史料から実平の姿は消えます。義経との関係の深さから、頼朝と義経の対立に巻き込まれ、政治的に失脚したという説もあります。しかし、『沼田小早川家系図』では建久2年11月25日死去と記されています。一方、所領であった安芸国沼田荘では、承久元年（1219年）に遠平と共に、遠平の妻である天窓妙仏尼（寺伝では源頼朝の娘）を弔うため棲真寺を創建した記録が残っており、承久年間まで生存していた可能性も指摘されています。また、米山寺の過去帳には承久2年（1220年）11月死去と記されています。『吾妻鏡』建久6年（1195年）7月13日条の記述から、それ以前に死去したとする説もあります。

人物像

実平は質実剛健な生活を送り、奢侈を好まなかったと伝えられ、頼朝からもその謹厳な振る舞いを賞賛されたとされます。『源平盛衰記』には、一ノ谷の戦い後、平清盛の妾であった厳島内侍を妾としたという記述もあります。

現在、JR湯河原駅前広場には実平夫妻の銅像があり、城願寺には土肥一族の墓所が残されています。

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