在原善淵

在原善淵（ありわら の よしふち）は、平安時代初期から前期にかけて活躍した貴族です。平城天皇の孫であり、高岳親王の子として生まれました。しかし、父である高岳親王が薬子の変により皇太子の地位を廃されたため、臣籍降下を余儀なくされ、在原朝臣の姓を賜りました。

皇族の血を引くにもかかわらず、五位への蔭位を受けることができず、六位から官僚としてのキャリアをスタートさせました。嘉祥3年（850年）に文徳天皇が即位すると、従五位下に叙爵し、官位を着実に上げていきます。斉衡3年（856年）には従五位上・大舎人頭に任じられましたが、その後中務少輔に転じ、天安元年（857年）には治部大輔に遷任するなど、目まぐるしい昇進を遂げました。

文徳天皇の治世末期には、天安2年（858年）に紀伊守として地方官に転じ、貞観元年（859年）には正五位下・大和守に任じられました。その後、内匠頭として京官に戻りますが、短期間のうちに大蔵大輔や再び内匠頭を歴任しました。この間、貞観4年（862年）には、幼少の頃に恩を受けた平城天皇のために、父の高岳親王が以前堂舎を構えていた荒廃地に寺院を建てることを願い出て許可されています。

貞観6年（864年）には、従四位下・紀伊守、次いで山城権守として再び地方官に転じました。また、貞観8年（866年）には平城天皇陵のそばに精舎を建立し、平城京に墾田を拓いてその修理費に充てたいと上奏し、平城京の田地が与えられました。貞観9年（867年）には神祇伯に任ぜられ、京官に復帰しましたが、翌貞観10年（868年）には従四位上・近江守として三度地方官に転出、その後、大和権守、山城権守、そして大和守と、清和天皇の治世後半は地方官を歴任しました。

貞観15年（873年）には、弟の安貞とともに、貞観6年（864年）に入唐後、長期間消息不明となっていた父・高岳親王の封邑の返却を朝廷に上表しましたが、許可されませんでした。在原善淵は、貞観17年（875年）2月2日に60歳で亡くなりました。最終的な官位は従四位上行大和守でした。

在原善淵の官歴は以下の通りです。

時期不詳：正六位上
嘉祥3年（850年）4月17日：従五位下、5月3日：見散位
斉衡3年（856年）1月7日：従五位上、6月14日：大舎人頭、11月21日：中務少輔
天安元年（857年）10月27日：治部大輔
天安2年（858年）1月16日：紀伊守
貞観元年（859年）11月19日：正五位下、12月21日：大和守
貞観2年（860年）8月26日：内匠頭
貞観4年（862年）2月14日：大蔵大輔
貞観5年（863年）2月10日：内匠頭、3月28日：次侍従
貞観6年（864年）1月7日：従四位下、1月16日：紀伊守、3月8日：山城権守
貞観9年（867年）2月11日：神祇伯、4月19日：兼河内権守
貞観10年（868年）1月7日：従四位上、1月16日：紀伊守
時期不詳：大和権守
貞観11年（869年）1月13日：山城権守
貞観14年（873年）日付不詳：大和守
貞観17年（876年）2月2日：卒去（従四位上行大和守）

在原善淵の系譜は以下の通りです。

父：高岳親王
母：不詳
妻：不詳
男子：在原一貫

在原善淵の生涯は、皇族の血を引きながらも臣籍降下を経験し、地方官と京官を交互に歴任した複雑なものでした。また、平城天皇への報恩のために寺院を建立するなど、信仰心の厚さも窺えます。彼の足跡は、平安初期の貴族社会における複雑な人間関係と政治情勢を映し出すものと言えるでしょう。

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