坂戸城の戦い

坂戸城の戦い

坂戸城の戦いは、天文19年（1550年）12月から翌天文20年（1551年）8月にかけて、越後国坂戸城（現在の新潟県南魚沼市）において、当時の坂戸城主であった長尾政景と、後に上杉謙信として知られる長尾景虎との間に起こった内乱である。

戦いの背景

この戦いの発端は、戦いの数年前に遡る。天文15年（1546年）、黒滝城主黒田秀忠が再び反乱を起こした際、越後守護代であった兄・長尾晴景が病弱で統率力に欠けていたため、弟である長尾景虎が討伐を指揮した。この討伐の成功により、景虎の武名は大いに高まった。一方、晴景の評判は低下の一途をたどっていた。

こうした状況の中、景虎の叔父である高梨政頼（中野小館城主）や、中条藤資、そして景虎の母である虎御前の実家である古志長尾家の長尾景信といった有力者たちが、晴景に代わって景虎を守護代に擁立しようと画策を始める。

これに強く反発したのが、晴景の義弟にあたる長尾政景であった。政景は晴景を支持する立場を明確にし、蒲原郡奥山荘黒川城（現在の新潟県胎内市）の黒川清実らの協力を得て、景虎を打倒する決意を固めた。

しかし、長尾兄弟間の対立は、当時の越後国守護であった上杉定実の仲介によって一旦は収束する。天文17年（1548年）12月30日、景虎と晴景は形式上「父子の義」を結び、晴景は隠居した。これにより、当時19歳であった景虎が新たな守護代となり、春日山城主として長尾家の家督を相続することとなった。

なお、近年の研究により、黒田秀忠が天文16年（1547年）7月まで生存していたことを示す史料が発見されている。この史料に基づくと、秀忠の反乱は景虎と晴景の対立が深まっていた時期に発生した可能性が高まる。この説を採る場合、景虎と敵対した黒田秀忠は晴景を支持しており、政景とも連携していた可能性が考えられる。少なくとも、天文18年（1549年）6月には既に政景と景虎の間に緊張関係があったことは確認されている。この頃、関東管領上杉憲政が北条氏康に攻められ、定実と景虎に救援を求めていたため、政景との直接対決は避けられたとされている（ただし、定実の病のため、関東への援軍派遣は実現しなかった）。

政景の挙兵

長尾政景は、景虎が守護代に就任し家督を相続したことを快く思っていなかった。これは、彼が以前から晴景を支持していたことに加え、景虎の母の実家である古志長尾家の勢力が拡大したことへの警戒感なども要因として考えられる。

そうした状況下、天文19年（1550年）2月26日に守護上杉定実が死去した。そのわずか2日後の2月28日、景虎は当時の将軍足利義輝から白傘袋と毛氈の鞍覆の使用を認められるという、実質的に一国の大名と同等の格式を与えられた。これにより、景虎の権威はさらに高まった。

同年12月28日、政景はついに坂戸城に立て籠もり、景虎に対して公然と反旗を翻した。景虎は、政景が会津の黒川城主（現在の福島県会津若松市）である蘆名盛氏と連携する可能性を懸念し、直ちに蘆名氏の家臣である松本右京亮に政景の謀反を伝えるなど、先手を打った。

坂戸城への攻撃と終結

天文20年（1551年）1月、景虎は政景方の武将である発智長芳の居城、板木城（現在の新潟県魚沼市）への攻撃を開始した。その後も再び板木城を攻めたが、完全に落城させるまでには至らなかった。

膠着状態が続く中、景虎は同年8月1日をもって坂戸城への総攻撃を行うことを決定し、坂戸城方の武将である平子に通告した。景虎の大軍による総攻撃が迫っていることを知った長尾房長・政景父子は、景虎に対し誓詞を送り、和平を願い出た。

戦いの影響

景虎は当初、政景を決して許さない構えであった。しかし、政景が景虎の姉の夫であることに加え、長尾家の老臣たちが政景の助命を懸命に嘆願したため、景虎は政景を赦免した。この戦いの後、長尾政景は景虎（後の上杉謙信）の有力な重臣として仕え、活躍することになる。

この坂戸城の戦いの終結により、長尾家内部における一族間の争いは終わりを告げた。当時わずか22歳であった長尾景虎は、これにより名実ともに越後国を統一することに成功したのである。

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