坂戸城

新潟県南魚沼市に位置する坂戸城は、魚野川を挟んで三国街道を見下ろす交通の要衝、標高634メートルの坂戸山に築かれた山城です。山頂には戦時の主要部である本丸が置かれ、山麓には平時の居館跡や家臣団屋敷跡の遺構が良好に残されています。上田長尾氏ゆかりの城として名高く、特に戦国時代には長尾政景や上杉景勝の居城として越後国の歴史において枢要な役割を果たしました。現在は国の史跡に指定され、その歴史的価値が保護されています。

歴史

越後国の魚沼郡南部、かつての上田荘にあたる地域には、鎌倉時代にはすでに城郭が築かれていたと考えられています。しかし、坂戸山に本格的な城郭が整備されたのは南北朝時代に入ってからのことです。南北朝の動乱期、北朝方についた上杉氏の家臣である長尾高景の一族が、文和年間（1352年～1355年）にこの地を領し、上田長尾氏を名乗って坂戸城を居城としたと伝えられています。以来、上田長尾氏は越後守護代の長尾氏と並ぶ勢力として台頭し、坂戸城は越後府中（現在の上越市直江津地区）と関東を結ぶ陸上交通、魚野川を利用した河川交通、そして豊かな穀倉地帯を擁する経済圏を抑える戦略上の要地として、その重要性を増しました。

永正4年（1507年）、守護代長尾為景が守護上杉房能を追放し、さらに永正7年（1510年）には関東管領上杉顕定をも破って越後国の実権を握る中で、上田長尾氏は一定の独立性を保ち続けます。しかし、為景の死後、長尾景虎（後の上杉謙信）が越後国主となると、天文20年（1551年）には上田長尾氏の長尾政景が謙信によって坂戸城を包囲され、降伏しました。政景はその後も重臣として活躍しましたが、永禄7年（1564年）に付近の野尻池で不可解な死を遂げています。

謙信の没後、跡を継いだ養子の上杉景勝と上杉景虎（北条氏出身）の間で家督争いである御館の乱が起こります。景虎を支援するため越後へ侵攻した北条氏の軍勢は、坂戸城を攻略しようと試みますが、景勝方の堅固な守りの前に阻まれ、冬の到来もあって撤退を余儀なくされました。この坂戸城での防衛戦は、景勝が乱を制する上で大きな要因の一つとなりました。

景勝が越後国主となり春日山城に移ると、坂戸城は春日山城の重要な支城として位置づけられ、領国経営の一大拠点となります。政景の家臣の子であった樋口兼続（後の直江兼続）ら「上田衆」は景勝の直臣団の中心を担い、兼続もまた坂戸城主に任じられています。天正10年（1582年）、織田信長の家臣滝川一益が上野国方面から越後に侵攻した際も、坂戸城は持ちこたえています。

慶長3年（1598年）、上杉景勝が陸奥国会津へ転封されると、代わって越前国から堀秀治が越後に入部しました。堀氏の家臣である堀直寄が坂戸城主となり、上田地方三万石を治めます。直寄は坂戸城を山麓の居館を中心に、近世城郭へと改修を進めました。しかし、慶長14年（1609年）に堀直寄が信濃国飯山へ移封されると、坂戸城はその役目を終え、廃城となりました。

構造と遺構

坂戸城は、山麓の居館部と山上の詰の城からなる典型的な中世の山城です。坂戸山は六日町盆地に向けて突き出した半島状の地形をなし、北、東、西の三方は急峻な崖となっています。特に西麓を流れる魚野川は、天然の堀として城の防御線を形成しています。

山麓の緩斜面には、かつての城主居館跡と家臣団の屋敷跡が広がっています。主郭と考えられる居館跡は東西約110メートル、南北約80メートルの規模で、周囲には土塁が巡らされ、特に西側正面には高さ約2メートルの見事な石垣が現存しています。居館跡の前面、魚野川側には「埋田」と呼ばれる堀跡も確認できます。また、居館跡の南側尾根には「中屋敷」跡、山頂へ向かう大手道の途中には「上屋敷」跡といった、複数の屋敷跡が配置されています。

戦闘の際の最終拠点である本丸は、山頂標高634メートルの比較的広い平坦地にあります。山頂近くで湧水が得られたことは、籠城戦において極めて重要な利点となりました。本丸から北に延びる尾根には、二の丸、三の丸といった主要な郭跡が階段状に配置されています。また、南東方向の搦手側にも郭跡が見られます。南東尾根の先端、標高631メートル地点には「詰の丸」と呼ばれる平坦地があり、ここにも土塁が残されています。山上尾根の要所には大規模な堀切が設けられ、敵の侵入を妨げています。本丸東側斜面にも石垣の一部が確認できます。さらに特筆すべきは、山頂から南西に延びる尾根上に築かれた防御施設です。標高500メートル地点付近にある「西の丸」跡から、尾根先端の「出丸」跡にかけての約2キロメートルの間に、100基以上もの畝状竪堀群が連続して築かれており、これは坂戸城の縄張りの大きな特徴の一つとなっています。

現在の様子と周辺情報

坂戸山山麓には、城主を務めた長尾政景の墓所や、上杉景勝・直江兼続の生誕を記念する碑が建てられており、ゆかりの武将たちを偲ぶことができます。山頂には、天正14年（1586年）に直江兼続の勧請によると伝えられる富士権現が祀られています。

現在、坂戸山は登山道が整備されており、多くのハイカーが訪れる人気の山となっています。例年6月30日には山開きが行われ、登山シーズンを迎えます。山麓周辺は南魚沼市六日町の市街地が広がり、温泉街もあり、観光拠点としても賑わっています。

坂戸城跡へのアクセスは、関越自動車道六日町インターチェンジから車で約10分、またはJR上越線・北越急行ほくほく線六日町駅から徒歩約20分と比較的容易です。歴史に思いを馳せながら、多様な遺構を巡り、山頂からの眺望を楽しむことができます。

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