多留姫の滝

多留姫の滝（たるひめのたき）は、長野県茅野市に位置する、知る人ぞ知る名瀑です。別名、樽姫の滝とも呼ばれ、茅野市の指定文化財にもなっています。

地理

滝は、茅野市の中心市街地から東に位置する大泉山の麓を流れる柳川に懸かっています。大泉山の頂からは、雄大な富士山と八ヶ岳を望むことができ、その眼下に見えるのが、この多留姫の滝です。滝は二段になっており、一段目は高さ9メートル、幅9メートルで水が流れ落ち、その後、直角に折れ、二段目は高さ3メートル、幅1メートルで流れ落ちます。その姿はまるで玉簾のようで、水が流れ落ちる音は、風にそよぐ琴の音色にも例えられ、訪れる人々の心を癒します。

春には藤の花が咲き誇り、ホトトギスの鳴き声が響き、夏には涼を求めて多くの人が訪れます。秋には紅葉が滝を彩り、冬には雪景色の中で滝が凍る様子を見ることができます。四季折々の美しい景色は、訪れる人々を魅了し続けています。

滝のすぐ下流には柳影橋という橋が架かり、さらにその先には県道17号線にかかる多留姫大橋が谷を跨いでいます。この橋からは、滝の全景を見渡すことができます。滝のそばには、多留姫神社が鎮座しており、建御名方神（諏訪大社の祭神）の子である多留姫神が祀られています。神社の創建時期は不明ですが、750年前には存在していたことが文献で確認されています。

茅野市は、1988年に多留姫の滝を名勝として市指定文化財に指定し、現在では滝周辺を「多留姫文学自然の里」として開放しています。地元の住民によって組織された創造委員会が、この地域の整備やイベントの運営を行っています。滝周辺には、松尾芭蕉をはじめとした多くの歌人や俳人の作品が刻まれた石碑が建立されており、訪れた人が自作の歌や俳句を投稿できる投句箱も設置されています。また、多留姫文学自然の里のマスコットキャラクターである「たるひめちゃん」は、滝を背景に滝壺に浮かんだ巻物に腰掛けている姿が描かれています。さらに、2014年には里の10周年記念として、地元の高校生がデザインした美少女キャラクター「紫音（しおん）」が、新たなマスコットとして起用されました。

伝承

椀貸伝説

多留姫の滝には、古くから椀貸伝説が語り継がれています。この伝説は、多留姫が村人に必要なだけ膳椀を貸してくれたというものです。昔、貧しいながらも仲の良い夫婦が子供を授かりましたが、祝いの席を開くための膳椀がありませんでした。困り果てていたある日、夫婦は夢の中で多留姫から、必要な膳椀の数を紙に書いて滝壺に落とすように告げられました。夢の通りにしたところ、翌朝には滝壺に膳椀が用意されていたのです。夫婦は無事にお祝いを終え、使った膳椀を洗って滝壺に返しました。しかし、この話を聞いた怠け者が、同じようにして膳椀を手に入れたものの、返すときに一部を返さなかったため、多留姫はそれ以降、膳椀を貸さなくなってしまったと言われています。別の説では、貸した膳椀が壊されて返されたため、貸すのをやめたとも伝えられています。

抜け穴伝説

多留姫の滝には、滝に流したものが別の場所で発見されるという抜け穴伝説も存在します。滝壺に椀や糠を流すと、茅野市の上原にある葛井神社の池に浮かんでいたという話が伝えられています。さらに、この葛井神社の池にも、諏訪大社の神事の後に池にお供え物を投げ込むと、遠江国（静岡県）の池に浮かぶという別の抜け穴伝説が存在し、諏訪大社七不思議の一つに数えられています。

多留姫十二勝

多留姫神社周辺には、「多留姫十二勝」と呼ばれる12の景勝地があります。これは、1902年に神社の整備に合わせて選定されたのが始まりで、1906年には小平雪人と坪井咬菜によって改めて選定されました。

1. 機山堂（きざんどう）：最澄作と伝わる仏像が安置されています。
2. 待月壇（たいげつだん）：八ヶ岳から昇る月を眺める絶好の場所です。
3. 古藤径（ことうけい）：神社から柳川に架かる橋へと続く小道です。
4. 柳影橋（りゅうえいきょう）：柳川に架かる橋で、水面に映る橋の影が美しいです。
5. 甑岩（こしきいわ）：かつて乞食が寝泊まりしていたという洞穴。
6. 獅子吼瀑（ししくたき）：多留姫の滝そのものを指します。
7. 喚魚潭（かんぎょたん）：多留姫の滝の滝壺です。
8. 載酒亭（さいしゅてい）：滝に酒を捧げたり、酒を酌み交わしたりする場所です。
9. 烏巾峰（うきんほう）：山伏や天狗が被る頭巾に似た巨岩です。
10. 蛍火台（けいかだい）：かつて柳川を舞う蛍を眺める場所でしたが、現在は農薬の影響で蛍は見られません。
11. 望岳丘（ぼうがくきゅう）：富士山や八ヶ岳などの山々を見渡せる場所です。
12. 採芝林（さいしりん）：かつて村人が芝を刈りに行った場所です。

アクセス

公共交通機関

多留姫神社から西へ歩き、機山堂を通り抜けて長野県道188号線の中沢交差点に出ると、近くに中沢バス停があります。JR中央本線茅野駅から路線バス中沢線に乗車し、中沢バス停で下車すると、滝まで徒歩圏内です。所要時間は約20分です。

多留姫の滝に関連する作品

作家の島木赤彦が作詞した『玉川村の歌』には、多留姫の滝が登場します。

多留姫の滝は、その美しい景観、神秘的な伝説、そして豊かな自然が調和した魅力的な場所です。ぜひ一度、訪れてみてください。

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