夢ひとり

美空ひばり「夢ひとり」

「夢ひとり」は、1985年5月29日にリリースされた美空ひばりのシングル楽曲です。この曲は、ひばり自身が書いた詩に、フォークシンガーのイルカが曲をつけたという、特別な背景を持っています。

楽曲の誕生

この詩は、もともと1982年6月26日の中野サンプラザでのリサイタルのために作られたものでした。1984年の暮れ、ひばりはイルカを新宿コマ劇場の公演に招待します。公演前に楽屋に招かれたイルカに、ひばりは白い封筒を差し出し、「これは私の今の気持ちなの。もしよかったら曲をつけてくれない？いつまでも待ってるわ」と頼みました。イルカはその突然の申し出に戸惑いながらも、「何とか頑張ってみます」と答えるのが精一杯だったそうです。その後、ステージを見ている間に曲のほとんどが完成したと言います。年が明けてからイルカがひばりにテープを渡すと、その日のうちにひばりから長文の手紙が届き、自分の思い通りの曲が出来て嬉しいという気持ちが綴られていました。

歌詞に込められた思い

この曲の原詩「夢ひとり」（我が愛の詩）には、ひばりの内面が深く表現されています。「この世に生れて　何の恐れもなく母の愛につつまれて　今日まで来たけれど　これからは 一人・・・」という言葉から始まり、喜びや悲しみを一人で受け止め、愛を失ったとしても生きていくという強い意志が感じられます。また、「春になると恋が芽ばえるだろう　人なみの幸せを求めて！」という一節には、未来への希望も込められています。しかし、その一方で「いつも・・・枯葉といっしょに　どこかへ・・・どこかへ逃げてゆく私」という表現からは、孤独や寂しさも感じられます。この詩は、ひばりの人生観や感情が率直に表れた、非常にパーソナルな作品と言えるでしょう。

楽曲の構成

シングルには、表題曲「夢ひとり」の他に、B面として「ビロードの夜」が収録されています。この曲もイルカが作曲を担当し、作詞は来生えつこが手がけました。「ビロードの夜」は、曲のキーが高く、ひばり自身もレコーディング時に少し心配していたそうですが、最終的には素晴らしい出来に仕上がったと言います。このエピソードからは、ひばりのプロ意識と、楽曲に対する真摯な姿勢がうかがえます。

アルバム「夢ひとり」

同年8月21日には、同タイトルのオリジナルアルバム「夢ひとり」が発売されました。このアルバムには、「夢ひとり」「ビロードの夜」の他、「冬のくちびる」「残侠子守唄」「裏町酒場」「人恋酒」「おまえに惚れた」「真赤な太陽」「悲しい酒」「柔」「ひばりの佐渡情話」「港町十三番地」「リンゴ追分」「悲しき口笛」といった、ひばりの代表曲が多数収録されています。

楽曲にまつわるエピソード

「夢ひとり」は、ひばりとイルカの個人的な繋がりから生まれた楽曲です。イルカの父が、かつてひばりの専属バンドの指揮者を務めていたことが、二人の親交のきっかけとなりました。ひばりがイルカに曲を依頼した際のエピソードは、彼女の人間味溢れる一面を表しています。また、B面の「ビロードの夜」のレコーディングでは、ひばりのプロとしての責任感と、妥協を許さない姿勢がうかがえます。これらのエピソードは、この楽曲が単なるシングルとしてだけでなく、ひばりの人生や音楽に対する情熱が込められた作品であることを物語っています。

まとめ

「夢ひとり」は、美空ひばりの心情が深く込められた詩と、イルカの美しいメロディが融合した、感動的な楽曲です。ひばりの48歳の誕生日にリリースされたこの曲は、彼女の人生を彩る数多くの名曲の中でも、特別な存在と言えるでしょう。

作詞：美空ひばり
作曲：イルカ
* 編曲：松井忠重

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