大ブルガリア (中世)

大ブルガリアとは

大ブルガリア（または古い大ブルガリア）は、7世紀にクブラト・ハンによって築かれた、ヴォルガ川下流からドニエストル川までの広大な範囲を支配した国家を指します。東ローマ帝国の歴史書にも登場し、オノグリアとも呼ばれます。

クブラト

クブラトは、有力氏族であるドゥロ家の出身で、ブルガール人の指導者としての正当な継承権を持っていました。彼は若い頃に東ローマ帝国で教育と洗礼を受け、628年頃に故郷に戻り、ブルガール人の指導者となりました。その後、アヴァール人の支配から脱却し、西突厥からも独立を果たしました。

大ブルガリア建国までの歴史

ブルガール族は、フン族のヨーロッパ侵攻に伴って歴史に登場しますが、その足跡を辿る史料は断片的です。確実な記録としては、8世紀のランゴバルド族の修道僧パウルス・ディアコヌスの『ランゴバルド史』に、5世紀初頭のパンノニア地方でのランゴバルド族とブルガール族の戦闘が記録されています。このことから、ブルガール族がフン族の部族同盟の一部であり、パンノニア地方でランゴバルド族の隣にいたことが分かります。

しかし、フン族の西進に伴う「民族大移動」の過程で、ブルガール族の全てがパンノニアへ移動したわけではなく、北コーカサス地方に留まったグループ（コーカサス・ブルガール）も存在しました。北コーカサスのブルガールは、突厥の支配下に入り、その後、西突厥の勢力下となります。

大ブルガリアの成立

クブラトは、西突厥可汗国の混乱に乗じてブルガール族をまとめ上げ、635年までにアゾフ海地方の覇権を確立し、大ブルガリアを建国しました。彼はクトリグル族とウティグル族の統一を図り、強力な連合国家を築き上げました。大ブルガリアの中心地は、クラスノダール地方のタマン半島にあるファナゴリアでした。

大ブルガリアの崩壊とその後

クブラトの死後、大ブルガリアはハザールの圧力によって分裂します。クブラトの息子たちは、父の教えに反してそれぞれが自身の氏族を率いるようになり、国は分裂しました。

大ブルガリアの後継国家

大ブルガリアの分裂後、ブルガール人は各地に散らばり、いくつかの後継国家を築きました。

ヴォルガ・ブルガール: クトレグに率いられた一派は、ヴォルガ川中流に移動し、ヴォルガ・ブルガールを建国しました。彼らは後にイスラム教に改宗し、13世紀まで民族意識を保持しましたが、モンゴル帝国によって支配下に置かれました。

マケドニアのブルガール: クベールに率いられた一派は、アヴァール可汗国の属領であったシルミウムに移住し、反乱後、マケドニアへ移動しました。彼らはケレミシアに住み、テッサロニキ征服を試みましたが失敗に終わり、後にマケドニアのスラヴ人へと同化しました。

南イタリアのブルガール: アルツェク公に率いられた一派は、ランゴバルド人とともにアヴァールから逃れ、南イタリアに移住しました。彼らはセピーノ、ボヤーノ、イゼルニアに定住し、独自の言語を保持していましたが、後にラテン語を話すようになりました。遺跡からは、当時のブルガール人の生活様式が窺える遺物も発見されています。

コーカサスのブルガール（バルカル人）: クブラトの長男バトバヤンに率いられた一派は故郷に留まり、ハザールの支配下に入りました。現在のバルカル人がその子孫であるという説があります。

第一次ブルガリア帝国: クブラトの三男アスパルフは、東ローマ帝国領であったモエシアとドブロジャを征服し、680年に第一次ブルガリア帝国を建国しました。

オノグリアの語源

オノグリアは、大ブルガリアの別名であり、その語源にはいくつかの説があります。

コーカサス・アヴァール語で「永遠不滅」を意味するという説。
テュルク語で「10のオグズの氏族」を意味するという説。
アルメニアの文献に登場するブルガールの一派「Unok-vndur」と結びつける説。

また、「ハンガリー」の名称は、オノグルに由来するという説もあります。

まとめ

大ブルガリアは、7世紀にクブラト・ハンによって築かれた短命な国家でしたが、その後のブルガール人の歴史に大きな影響を与えました。その分裂と、後継国家の成立は、中世の東ヨーロッパの歴史を理解する上で重要な要素です。また、オノグリアという異名は、様々な言語や文化との関連性を示唆しており、歴史研究において興味深いテーマとなっています。

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