検税使

検税使について

検税使（けんぜいし）とは、古代日本の律令制において、諸国の官倉（正倉）に貯蓄された正税の損害の有無を検査するために、中央政府から派遣された臨時の官職（令外官）です。屯倉の税司の後身と考えられており、各正倉の貯積量を道ごとの計算法によって定めていました。時には、按察使や観察使がその役割を代行することもあったとされています。

検税使の起源と初期の活動

「検税使」という言葉が初めて登場したのは、『万葉集』に収録された歌の中です。この歌は、大伴旅人が常陸国に派遣された際に詠まれたものではないかと考えられています。滝川政次郎の研究によると、この派遣は養老3年（719年）の初め頃と推定されています。この歌が作られた背景には、藤原宇合と高橋虫麻呂の繋がりや、大伴旅人が従三位に叙せられた時期などが考慮されており、養老6、7年頃（722年 - 723年）に作られた可能性が高いとされています。

また、村尾次郎の研究によると、養老3年（719年）7月に任命された按察使も検税を行っていたことが、天平2年度（730年）の「尾張国正税帳」や天平10年度の「駿河国正税帳」から判明しています。これは、正税管理の責任者である国司や郡司による管理が必ずしも適切ではなかったため、畿内と西海道を除く諸道に按察使を設置し、臨時で検税を行ったものです。その後、5年ごとに按察使による検税が実施されました。これらの検税は、大宝2年（702年）に廃止された税司の職務を継承するものであり、養老元年の大計帳式等の頒布や、養老3年以降とされる倉印頒賜など、諸国財政の把握を強化する政策とも関連があると考えられています。

検税使の活動内容

史料における初見では、天平6年（734年）に七道に検税使が派遣されたと記録されています。この際、「東海道は二千七百寸を以て斛法と為す」と『撰定交替式』にあるように、正倉に貯蔵された穀の計算基準が道ごとに定められました。この時の検税使の派遣は、官稲混合の実施や正倉の管理状況を把握するためだったと考えられます。天平9年度（737年）の「長門国正税帳」には、2年前の天平7年に検税使が古穎や腐穀を摘発したことが記されています。

宝亀7年（776年）には、大伴潔足が東海道、石上家成が東山道、吉備真事が北陸道、当麻永嗣が山陰道、石川真永が山陽道、多治比三上が南海道、多犬養が西海道へと派遣され、各道に判官と主典が一人ずつ配置されました。亀田隆之や福井利彦の研究によると、この時の検税使派遣は、前年の宝亀6年（775年）8月に太政官が採用した、諸国公廨稲の4分の1を京官の俸禄に充てるという政策による、国司の不正行為防止が目的だったとされています。この時の検税では、穀の種類によって計量基準が定められ、穀の貯蔵年数による乾燥収縮の度合いに応じて、全国一律に大中小の3種類の斛法が用いられました。

その後の検税使

9世紀の検税使に関する史料として、『類聚三代格』天長2年（825年）5月の太政官符には、中央からの使官を事の軽重に応じて「詔使」と「官使」に分けた際に、検税使などを詔使に準ずると記されています。また、『菅家文草』巻第九には、寛平8年（896年）7月5日付の「議者をして、覆せ検税使の可否を反しめむことを請ふ状」が収録されています。

まとめ

検税使は、律令制下の財政運営において重要な役割を果たした臨時の官職でした。正税の管理を徹底し、不正を防止することで、国家財政の安定に貢献しました。その活動は、税制や官僚制度の研究においても重要な資料となっています。

参考文献

永原慶二 監修『岩波日本史辞典』岩波書店、1999年
『国史大辞典』第五巻、吉川弘文館、1979年
『続日本紀』4・5、岩波書店〈新日本古典文学大系 15・16〉、1995年・1998年
『萬葉集 （三）』小学館〈完訳日本の古典 4〉、1984年
『菅家文草 菅家後集』岩波書店〈日本古典文学大系 72〉、1966年

関連文献

田中孝治「我国監査の起源に関する一考察」（pdf）『経営総合科学』第97号、愛知大学経営総合科学研究所、2012年2月

関連項目

四度使（計帳使〈大帳使〉・正税帳使・貢調使・朝集使）
勘会
* 官稲混合

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