大石種次

大石種次（おおいしたねつぐ）は、江戸時代後期から幕末にかけて活躍した柳河藩の剣客です。諱は種次、通称は進、後に七太夫と改めました。隠居してからは武楽と号しました。彼は、大石神影流（おおいししんかげりゅう）という剣術流派の創始者であり、その卓越した剣技から、男谷信友（おだにのぶとも）、島田虎之助（しまだとらのすけ）と共に「天保の三剣豪」の一人に数えられています。

身長が7尺（約212cm）もあったとされる大柄な体躯に加え、5尺3寸（約160cm）もの長竹刀を操り、得意とした左片手突きは、当時「天下無双の技」とまで言われるほどでした。柳河藩では立花壱岐組に所属し、家格は給人でした。

生涯

大石神影流の創始

大石種次は、筑後国三池郡宮部村（現在の福岡県大牟田市）で、柳河藩士の大石種行（たねゆき、太郎兵衛）の長男として生まれました。幼少の頃から、祖父である種芳（たねよし）から、大石家が師範を務めていた剣術の新陰流（または愛州影流）と、大島流槍術を学びました。

父の種行は、柳河藩と支藩である三池藩の両方で剣槍術師範役を務めていましたが、そのために交際費がかさみ、30石の家禄では生活が苦しかったようです。種次は幼い頃から馬を飼い、家の前の田畑を耕して家計を助けていたと言われています。しかし、そのために稽古不足となり、ある年の正月に行われた御前試合で惨敗してしまいます。これを機に奮起した種次は、石を吊るして突き技を鍛錬し、胴切りや諸手突きに加え、生来の左利きを活かした独自の左片手突きを編み出しました。また、従来の唐竹面、長籠手、袋竹刀といった防具を、13本穂の鉄面、竹腹巻、半小手といった新しいものに変えたとされています。この時、種次は18歳であり、ここから大石新影流を名乗るようになりました。

九州武者修行

文政5年（1822年）、神陰流の免許皆伝を受けた種次は、豊前中津藩の長沼無双右衛門（ながぬまむそうえもん）の道場を訪ね、7日間門人たちと立ち合った後、8日目に無双右衛門と試合をしました。長沼は7日間、種次の技を観察し、用心して生竹で竹刀をこしらえ、これを使わせて立ち会いましたが、種次の左片手突きは長沼の鉄面を突き破り、眼球が面の外まで飛び出したと言われています。その後、豊後路から久留米へと武者修行を続け、久留米では40人と立ち合い、一戦も落とすことはありませんでした。

文政8年（1825年）には、父種行が54歳で亡くなり、種次は22歳で家禄30石を継ぎ、柳河藩の剣槍師範役に任じられました。3年前に試合をした長沼無双右衛門は、傷を癒した後、18人の門人を連れて大石の門下に入り、この頃から九州各地から入門者が集まるようになりました。種次は、他国の門人には剣術のみを教え、槍術は指南しなかったと伝えられています。

江戸出府、名剣士たちとの対決

天保3年（1832年）、藩から聞次役を命じられ江戸へ出府した種次は、3ヶ月の間、江戸の名門道場に次々と挑み、長身と長竹刀から繰り出される突き技で、多くの剣士を打ち負かしました。千葉周作（ちばしゅうさく）がかろうじて引き分けた（千葉は種次の突きを防ぐために、樽の蓋を竹刀の鍔に使用したと言われています。）他は、『一刀流極意』によると、白井亨（しらいとおる）（天真一刀流、天真白井流）ただ一人が種次に勝利したとされています。このため、江戸の各道場は大いに恐れ、大石は竹刀に大きな鍔を付けていたことから「大鍔先生」と称されました。講談師の伊東燕尾（いとうえんび）は、大石に敗れたことがきっかけで講談師になったという逸話もあります。

翌天保4年（1833年）には、当時随一の実力者と言われた男谷信友と試合をしました。初日は男谷が勝利しましたが、翌日、種次が工夫して狙いをやや下げたところ、男谷がどんなに避けても突きが命中し、種次が勝利しました。日を改めて試合をしましたが、男谷も種次の突きにはなすすべがなかったようです。男谷は種次の技に感心し、諸方の師範家や高名な剣士に入門を斡旋したと言われています。同年、帰国して60石に加増されました。

天保10年（1839年）には、再び江戸に出府しました。種次の剣名はすでに高く、旗本や諸藩の武士が入門を希望したと言われています。同年9月3日、老中水野忠邦邸に招かれ、田島岩尾（たじまいわお）、島田虎之助らと技を競い合いました。

天保11年（1840年）には帰国し、70石に加増され、100石高の軍役を申し付けられました。

晩年

弘化5年（1848年）、種次は七太夫と、嗣子の種昌（たねまさ）も進と通称を改名しました。嘉永元年（1848年）12月には、種昌が剣槍術師範代となり、種次は家督を種昌に譲って隠居し、武楽と号しました。隠居料として15俵を拝領しています。文久3年（1863年）11月19日、67歳で亡くなりました。

2代目の大石種昌（進）も、剣技に優れており、容貌や技、態度まで父に似ていたと言われています。千葉栄次郎（ちばえいじろう）を破ったのは、この2代目の種昌であるとされています。種昌は明治11年（1878年）12月22日、55歳で亡くなりました。

脚注

参考書籍

綿谷雪『日本剣豪100選』秋田書店、1971年。
『三百藩家臣人名事典 7』新人物往来社、1989年。
* 柳川市史編集委員会『柳川歴史資料集成第三集柳河藩立花家分限帳』柳川市、1998年。

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