大築尚志

大築 尚志（おおつき たかゆき）

天保6年11月5日（1835年12月24日）に生まれ、明治33年（1900年）6月12日に没した日本の陸軍軍人。最終階級は陸軍中将。幼名は保太郎。

生い立ちと初期の学び

大築尚志は、下総国佐倉藩の藩士、大築弥市尚忠の子として佐倉城内に生まれました。母はつな。幼少期から佐倉藩校である成徳書院（現在の千葉県立佐倉高等学校の前身）で学び、12歳だった弘化4年（1847年）には、儒学の基礎である四書の素読試験で優秀な成績を修めています。嘉永4年（1851年）には藩命により高島流砲術の修行を命じられ、嘉永6年（1853年）と翌年のペリー艦隊来航時には、沿岸警備のため現在の千葉市にあたる寒川浦に出張しています。その後、藩の洋学者である手塚律蔵らに師事して蘭学や英学を習得し、その才能を認められて万延元年（1860年）には佐倉藩の洋学指南役となりました。師の推薦を受けて文久2年（1862年）には幕府の蕃書調所に出役教授手伝として出仕しています。

幕府および明治政府での活躍

元治2年（1865年）に幕臣に取り立てられた大築は、幕府陸軍で歩兵差図役として洋式軍隊の編成に携わりました。この時期にオランダの教本を翻訳した『歩兵心得』は、元治元年（1864年）に出版され、幕府軍の訓練に用いられました。明治維新後、主家の駿河移封に伴い、沼津兵学校の設立に深く関与します。西周を頭取に招き、その創設と運営に尽力し、西が辞任した後、明治3年（1870年）には自身も頭取並を務めるなど、新時代の士官育成に貢献しました。

廃藩置県後、沼津兵学校が兵部省に移管されると、大築は陸軍中佐兼兵学助に任じられ、新政府の軍制改革に関わることになります。陸軍省では、第3局副長、造兵正御用取扱、砲兵本廠提理、砲兵会議副議長などを歴任し、日本の軍事技術、特に火砲を中心とした軍備の近代化に深く関与しました。明治19年（1886年）には陸軍少将に昇進するとともに砲兵会議議長となり、その専門知識を発揮しました。その後も砲兵監や、日清戦争時には臨時東京湾守備隊司令官を務めるなど重責を担い、日本の防衛力強化に努めました。明治32年（1899年）には陸軍中将に昇進し、同時に後備役に編入されています。

人物と家族

大築尚志は、幕末の動乱期から明治維新を経て、日本の軍隊が近代的な組織へと変貌を遂げる過程で、軍事技術者として一貫してその発展に貢献した人物です。特に砲兵分野における知識と経験は高く評価されました。

家族にも才能に恵まれた人物がいます。息子の千里は京都帝国大学教授となり、四男の佛郎は東京帝国大学出身で明治38年（1905年）に麹町女学校（現在の麹町学園女子高等学校）を創立しました。六女の壽天は陸軍軍人でのちに総理大臣となった田中義一に嫁いでいます。また、孫（大築千里の子）には作曲家の大築邦雄がいます。

晩年と栄典

明治33年（1900年）6月12日、享年66歳で逝去。その長年の功績に対し、正四位と旭日重光章が追贈されました。墓所は東京都港区南青山の青山墓地にあり、戒名は大興院殿真常尚志大居士です。

主な栄典

明治7年（1874年）2月18日：従五位
明治18年（1885年）11月19日：勲三等旭日中綬章
明治19年（1886年）11月16日：正五位
明治20年（1887年）12月27日：金製黄綬褒章
明治22年（1889年）11月25日：大日本帝国憲法発布記念章
明治28年（1895年）8月20日：勲二等瑞宝章

関連文献

樋口雄彦著『大築尚志略伝』（沼津市博物館紀要第11号、1987年）
宮地正人編『幕末維新論集〈12〉明治維新の人物像』（吉川弘文館、2000年）

関連項目

幕府陸軍
幕府陸軍の将校

もう一度検索