大阪俗謡による幻想曲

「大阪俗謡による幻想曲」は、作曲家・大栗裕が手がけた管弦楽曲および吹奏楽曲です。この作品は、大阪の地に根付く民謡や祭囃子をモチーフにしており、その旋律とリズムが織りなす独特な世界観が特徴です。

概要

この曲は、指揮者・朝比奈隆の海外公演の依頼を受け作曲され、1956年 5月28日に神戸新聞会館で朝比奈の指揮、関西交響楽団によって初演されました。初演後、朝比奈はウィーン・トーンキュンストラー管弦楽団、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団でもこの曲を演奏し、海外でも高い評価を得ました。

楽譜

この曲は、楽譜の移動や改訂により複数の稿が存在します。

初演稿：1956年の初演や、その後の海外での演奏で使用された稿です。譜面には「大阪の祭囃子による幻想曲」と記されていますが、初演時のプログラムなどでは「大阪俗謡による幻想曲」とされており、題名は初演前に変更されたと考えられます。この初演稿は、朝比奈の演奏後ベルリン・フィルの資料庫に保管されていましたが、1999年に43年ぶりに日本へ里帰りし、大阪フィルハーモニー交響楽団によって演奏されました。
1958年ごろの再構成稿：初演稿が日本に存在しない状況下で、大栗自身が記憶を頼りに再構成したとされる稿です。記憶違いなどから、初演稿とは異なる部分も存在するとされています。この稿は、1970年稿の完成後破棄されたと考えられ、現在は所在が確認されていません。
1970年改訂稿：現在、オーケストラによって演奏される際に一般的に使用される稿です。この稿は、初演後再構成された際に生じた差異を修正し、芸術的な動機に基づく修正を加えたものと考えられています。演奏時間は約12分で、手書きスコアは大阪フィルハーモニー交響楽団内の「大栗文庫」が所蔵しています。2014年には、この手書きスコアに基づいた「原典版」がティーダ出版から出版されました。
吹奏楽のための「大阪俗謡による幻想曲」：1970年稿を大栗自身が吹奏楽編成用に編曲したものです。1974年 5月30日に大阪市音楽団によって初演されました。吹奏楽版は、演奏される機会も多く、親しまれています。こちらも、2013年にティーダ出版から原典版が出版されています。

吹奏楽コンクール用カット版

全日本[[吹奏楽コンクール]]などの演奏時間制限により、曲の一部をカットしたものが演奏されることがあります。また、演奏時間短縮のため、設定テンポよりも速く演奏されることもあります。

淀工カット版：大栗と丸谷明夫によって校訂された版です。1980年に大阪府立淀川工業高等学校吹奏楽部が全日本[[吹奏楽コンクール]]で初演しました。このカット版は、同部と金光八尾高等学校が独占的に使用しており、丸谷が指揮した「なにわ《オーケストラル》ウィンズ」の演奏会でも用いられました。演奏時間は約8分です。
辻井カット版：辻井清幸によって校訂された版です。辻井版と淀工版では、カットされている箇所が異なります。1984年に尼崎市吹奏楽団が全日本[[吹奏楽コンクール]]で初演し、1989年にはアメリカの出版社から出版されました。2013年に全曲版が出版されるまで、管弦楽版を含め本作の唯一の出版譜でした。演奏時間は約8分で、淀川工科高等学校吹奏楽部以外の楽団が使用しています。

楽器編成

管弦楽（1970年稿）

一般的なオーケストラ編成。
吹奏楽

吹奏楽編成。

※辻井カット版では2番オーボエがコーラングレ持ち替えの場合がある。
※場合によっては、Tamb.milit.（小太鼓）を締太鼓に置き換えて演奏されることもある。

楽曲構成

現在一般的に演奏されている1970年稿に基づく楽曲構成は以下の通りです。

演奏時間は約12分。
アンダンテの序奏とアレグロの主部から構成されます。
序奏は、強烈な強奏から始まり、弦楽器（吹奏楽版ではクラリネットとサクソフォーン）のオスティナートに乗って管楽器が絡み合う、神秘的な雰囲気で盛り上がります。この序奏の雰囲気は、「神事」や「神道の神楽」に例えられます。
主部は、テンポが上がり、3つの主題が提示され展開します。第一主題は打楽器で演奏される天神祭の地車囃子のリズムに基づくもので、第二主題は木管楽器によって演奏される、都節音階による大栗オリジナルのものです。ピッコロによって演奏される第三主題は、生國魂神社の夏祭りにおける獅子舞の囃子を使用しています。
アンダンテの中間部では、弦楽器のピッツィカート（吹奏楽版ではシロフォン）に乗ってオーボエやフルートが歌い、アレグロに戻ると再び主要主題が展開、再現されます。
コーダはプレストにテンポを上げ、第一主題のリズムと組み合わされた第三主題がクライマックスを形成し、熱狂のうちに曲を閉じます。

この曲は、大阪の伝統的な祭りや音楽を基盤に、大栗裕の独創的な音楽語法が融合した、聴く者を魅了する作品です。

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