天狗倶楽部

天狗倶楽部：日本のアマチュアスポーツ黎明期を彩った熱き集団

天狗倶楽部は、明治42年（1909年）頃、冒険小説家・押川春浪を中心とした文人やスポーツ愛好家によって結成された社交団体です。野球を主軸に、相撲、テニス、柔道、陸上競技、ボート競技など、多様なスポーツを愛好し、活発な活動を展開しました。

設立と個性豊かなメンバーたち

発足当初は「文士チーム」と呼ばれ、羽田球場で早稲田大学[[野球部]]と米艦乗員チームの試合の前座として試合を行い、「天狗チーム」と呼ばれるようになったことが、現在の名称の由来です。

メンバーは文芸評論家の中沢臨川、劇作家・演出家の水谷竹紫、新聞記者・随筆家の弓館小鰐、早稲田大学応援団初代団長を務めた吉岡信敬など、各界の著名人が名を連ね、最大時には約100名にものぼる大所帯となりました。会員登録は緩やかなもので、明確な入退会手続きや会員名簿は存在しませんでした。メンバーは苗字に「○○天狗」を付けるのが特徴でした。作家の柳川春葉や岩野泡鳴も観戦に訪れるなど、文化人との交流も盛んであったことが伺えます。

多彩なスポーツ活動

天狗倶楽部の活動の中心は野球でした。早稲田大学[[野球部]]関係者が多数参加しており、1日に3～4試合を行うことも珍しくありませんでした。結成から3ヶ月間で25試合を行うなど、その活動の盛況ぶりがうかがえます。

野球殿堂入りを果たした押川清、河野安通志、飛田穂洲、橋戸頑鉄、太田茂ら、日本野球史に名を刻んだメンバーを輩出したことでも知られています。他にも、岩手野球の父と呼ばれた獅子内謹一郎や、後楽園イーグルスの監督を務めた山脇正治など、多くの逸材が所属していました。東京朝日新聞の野球害毒論キャンペーンに対しても、反対論陣の中心として積極的に活動しました。全国中等学校優勝野球大会（現・全国高等学校[[野球選手権大会]]）の地方予選大会にも協力するなど、日本の野球界の発展に大きく貢献しました。

相撲も盛んに行われ、1909年には小説家・江見水蔭率いる「江見部屋」との対抗試合が、アマチュア相撲・学生相撲の始まりとなりました。翌年には国技館で学生相撲大会を開催し、毎年「武侠世界」との共催で継続されました。この大会の運営の中心人物であった大村一蔵は、後に帝国石油副総裁、日本地質学会会長などを歴任するなど、多方面で活躍しました。関取の玉椿憲太郎も参加した記録が残っています。

テニスにおいては、芸術家の社交クラブ「ポプラ倶楽部」との交流が深く、メンバーである小杉未醒や針重敬喜らを通じて、天狗倶楽部でも盛んにテニスが行われました。針重は日本庭球協会理事を務め、弓館小鰐は「東京オールドボーイズ庭球大会」（現在の毎日テニス選手権）の開催を実現させるなど、日本のテニス界の発展にも貢献しました。

柔道では、押川清など講道館の段位を持つメンバーがいたものの、倶楽部としての大きな活動は記録されていません。しかし、世界中を武者修行した前田光世と佐竹信四郎がメンバーであったことは特筆すべきでしょう。

陸上競技では、ストックホルムオリンピックの代表選手予選に協力し、三島彌彦が飛び入り参加で優勝し、代表選手に選ばれるというドラマチックな出来事がありました。

ボート競技においては、早稲田大学漕艇部との試合記録が残っています。

解散とその後

大正時代以降、主要メンバーの相次ぐ他界により、天狗倶楽部の活動は次第に衰え、太平洋戦争末期には活動を停止しました。しかし、物故会員の追悼会や押川春浪の三十回忌墓参会などが行われるなど、その存在は長く人々の記憶に残っています。

天狗倶楽部の意義

天狗倶楽部は、単なるスポーツ団体を超え、文化人やスポーツ愛好家が交流し、日本のスポーツ界の発展に大きく貢献した、独特の文化を築き上げた集団でした。その自由で活気あふれる活動は、今日のスポーツ文化にも大きな影響を与えていると言えるでしょう。 彼らの活動記録は、日本のスポーツ史における貴重な資料として、現在も高く評価されています。

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