太史慈

太史慈（たいし じ）

太史慈（166年 - 206年）は、後漢末期の武将で、字は子義（しぎ）といいます。青州東萊郡黄県（現在の山東省竜口市一帯）の出身です。息子の太史享もまた、呉に仕え、その子孫には南朝梁の学者である太史叔明がいます。

生涯

若くして学問を好み、身長七尺七寸（約177cm）という恵まれた体格で武勇に優れていました。立派な髭をたくわえ、弓術においては百発百中の腕前を誇りました。孫策と共に山賊討伐を行った際、遠くの砦から罵声を浴びせてきた山賊が手にしていた木ごと射抜いたという逸話が残っています。

青州時代

太史慈は初め、東萊郡の官吏として務めていました。郡と青州との間で対立が起こった際、太史慈は都へ上奏を届けました。その際、機転を利かせて州側の上奏を切り破り、郡に有利な処分を引き出すことに成功しました。しかし、この行動が原因で州から疎まれ、遼東郡へ逃れることとなります。遼東に滞在中、彼の母親の面倒を見ていたのは、孔融でした。その恩に報いるため、孔融が黄巾残党の管亥に攻められた際、太史慈は救援に駆けつけます。しかし、管亥の攻撃は激しく、容易に近づけませんでした。そこで太史慈は、城外で弓の練習を始め、敵兵の注意を惹きつけました。それを何日も繰り返すうちに、敵兵たちは「また練習か」と興味を示さなくなりました。その隙をついて、太史慈は単騎で敵の包囲網を突破し、平原相を務めていた劉備のもとへ救援要請の使者として赴きました。劉備の援軍が駆けつけると、賊兵は包囲を解いて逃走しました。救出された孔融は、以前にも増して太史慈を尊重し、「あなたは我が若き友だ」と称えました。一連の事態が収まると太史慈は母親にこのことを報告し、母親も「あなたが孔融様に恩返しできた事を嬉しく思います」と息子の功績を讃えました。

孫策への降伏

孔融を助けた後、太史慈は同郷の揚州刺史であった劉繇に仕官しました。しかし、その元を離れる間もなく、孫策の軍勢が攻めてきました。劉繇の部下の中には、太史慈を大将軍に任命するよう進言する者もいましたが、劉繇は「太史慈を使えば、許子将に笑われるだろう」と懸念し、彼に偵察任務のみを与えました。太史慈がたった1騎で孫策軍を偵察していたところ、韓当・宋謙・黄蓋ら13騎を従えた孫策と遭遇しました。太史慈は刀を構え、孫策に正面から打ちかかりました。孫策は太史慈の馬を刺し、太史慈がうなじに巻いていた手戟を掴み取りました。一方、太史慈は孫策の兜を奪い取りました。その時、両軍の騎兵が殺到したため、2人は軍とともに退却しました。

結局、劉繇は孫策に敗れました。劉繇敗走後も、太史慈は自ら兵士をまとめ、丹陽太守を自称して抵抗しましたが、敗れて捕らえられました。太史慈の武勇を高く評価していた孫策は、自ら縄を解き、折衝中郎将に任じ、呉郡に戻ると兵を預けました。劉繇が病死したことを知ると、太史慈は「散り散りになった残兵を掻き集めて参ります」と言って孫策の下を離れました。孫策の部下の多くは裏切りを心配しましたが、孫策は太史慈を信じて待ちました。その後、太史慈は約束通り残党兵を掻き集めて戻り、建昌都尉に任じられました。

孫家の武将として

劉表軍の劉磐による度重なる侵攻を防ぎ、黄祖討伐などでも大きな功績を挙げたため、孫策・孫権から重用されました。曹操は太史慈の噂を聞きつけ、家臣に迎えたいと考え、「当帰」という薬草を贈り、好条件で勧誘しました（「当帰」は「故郷（青州）に帰るべし」という意味を含んでおり、当時曹操は既に青州も勢力下においていたため、「私の元に来い」という暗示でした）。しかし、太史慈は孫権への忠義を選び、この誘いを拒絶しました。

その死

正史によれば、赤壁の戦い以前の建安11年（206年）に、41歳で死去しました。裴松之の注に引く『呉書』によれば、太史慈は死の間際に「大丈夫たる者がこの世に生を受けたからには、七尺の剣を帯びて天子の階段を上るべきなのに、その志を実現できずに死ぬことになるとは！」という趣旨の発言をしたとされています。

太史慈の墓は、清の同治11年（1872年）に江蘇省鎮江府丹徒県北固山で発見されています。

三国志演義における太史慈

小説『三国志演義』では、太史慈は赤壁の戦いでも存命しており、大いに活躍しています。また、翌年には合肥の戦いで張遼と一騎打ちを演じ、引き分けに終わりました。その後、太史慈は部下の戈定を潜入させ、魏軍の混乱を引き起こそうとしましたが、逆に張遼の計略にかかり、誘い込まれて矢傷を負いました。陸遜・董襲に救われ辛くも撤退するも、その矢傷がもとで死去しました。その際、主君である孫権から慰問に派遣された張昭を前に、『呉書』に記載されているのと同様の言葉を叫んで亡くなったとされています。

太史慈を題材とした作品

* 三国志外伝「太史慈」（小説、宮城谷昌光、文藝春秋）

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