孫策の江東平定

孫策の江東平定：呉の礎を築いた電撃戦

後漢末期の195年から199年にかけて、孫策が行った江東平定戦は、後の呉王朝の基礎を築く上で非常に重要な出来事でした。この戦いを通じて、孫策は江東一帯を迅速に制圧し、その勢力を確立しました。この電撃的な制圧劇は、劉備の荊州江南制圧や曹操の躍進と並び称されることがあります。

前史：父の死と袁術の庇護

191年、孫策の父である孫堅は襄陽の戦いで戦死しました。これにより、孫策は一時的に江都に移り住み、孫堅の軍勢は袁術に吸収されることとなりました。孫策自身も袁術の庇護下に入り、呂範や孫河といったわずかな家臣のみが彼に従っていました。

192年、孫策は袁術に孫堅の軍の返還を求めましたが、拒否されます。その後、孫策は袁術の勧めで母方の叔父である呉景を頼り挙兵しますが、丹陽で一揆勢力に大敗を喫します。しかし、呉景の進言により、孫河や呂範と共に祖郎を破り、勢力を回復しました。194年、袁術の元に戻った孫策は再び軍の返還を求め、1000人強の兵を得ます。この中には、朱治、黄蓋、韓当、程普といった、後の呉を支える重要な武将たちが含まれていました。

袁術は当初、孫策を九江太守に任命すると約束しましたが、後にこれを反故にし、陳紀を任命しました。その後、袁術は徐州攻撃のために陸康に兵糧援助を要求しますが、拒否されたため孫策に陸康を攻撃させます。孫策は陸康を打ち破るものの、袁術は再び約束を破り、劉勲を廬江太守に任命します。これにより、孫策は袁術に失望し、江東での自立を決意するようになります。

当時の揚州は、劉繇が統治していましたが、実質的な支配は丹陽、呉、会稽、豫章の4郡に限られており、九江と廬江は袁術が支配していました。劉繇は袁術との対立を避けるため、丹陽郡の曲阿県を拠点としていました。当初、劉繇は呉景と孫賁を支持していましたが、袁術が揚州全域の支配を目指すと、彼らを追放します。袁術は恵衢を揚州刺史に任命し、呉景、孫賁と共に劉繇と戦わせますが、膠着状態が続きました。

戦いの経過：江東制覇への道

195年、孫策は朱治の勧めもあり、劉繇と対峙する呉景の援軍として袁術に申し出ます。袁術はこれを承諾し、孫策を折衝校尉に任命します。孫策はわずかな兵力で出発しますが、歴陽に到着する頃には多くの兵が加わり、軍勢は5,000人以上に膨れ上がっていました。この中には、周瑜、蔣欽、周泰、陳武、凌操といった、後に孫呉を支える主要な人物たちが含まれていました。

孫策は長江を渡ると、瞬く間に張英が守る当利口と樊能・于糜が守る横江津を制圧し、劉繇が篭る牛渚の要塞も陥落させました。劉繇は曲阿に逃走し、孫策は薛礼や笮融といった劉繇の部将を次々と打ち破ります。太史慈との一騎打ちや、流れ矢による負傷など、苦戦する場面もありましたが、最終的には劉繇を豫章郡へ追いやり、曲阿を占領しました。

曲阿に入った孫策は、寛大な政策を実施し、民衆の支持を集めます。劉繇や笮融の配下にも帰順を呼びかけ、わずか10日間で3万人もの兵が集まりました。勢力を拡大した孫策は、袁術との関係を維持するため、呉景と孫賁の軍を返還しました。

一方、豫章郡に入った劉繇は、太守の座を巡る争いに巻き込まれ、笮融に殺害されます。その後、劉繇自身も病死し、華歆が豫章太守に任命されました。

196年、孫策は厳虎や会稽太守の王朗を討伐するため、軍を進めます。王朗は虞翻の進言を聞き入れず、孫策を迎え撃ちますが、孫策は孫静の策を用いて王朗軍を破り、会稽郡を平定しました。王朗は東冶に逃れますが、最終的には孫策に降伏し、その才能を惜しまれ許されました。

孫策が会稽郡を攻略した頃、陳瑀が呉郡太守を自称し、厳虎と同盟を結び孫策に抵抗します。しかし、陳瑀は呂範に敗れ、厳虎も許昭の下へ逃れます。その後、鄒他や王晟といった豪族も孫策に抵抗しますが、鎮圧されました。孫策は母の言葉に従い、王晟を見逃しましたが、その他の反乱勢力は処刑しました。

197年、袁術が皇帝を自称すると、孫策は袁術に諫言しますが、聞き入れられませんでした。これにより、孫策は袁術を見限り、独立を決意します。周瑜や魯粛、呉景、孫賁といった人々も孫策に合流し、孫策は朝廷から討逆将軍に任命され、呉侯の称号を受けました。

袁術は祖郎を使って孫策の背後を突かせようとしますが、孫策は祖郎を破り、配下に迎えます。また、太史慈も孫策に捕らえられますが、その武勇を認められ、配下に加えられました。

199年、袁術が病死すると、その配下は孫策に降伏しようとしますが、劉勲に略奪されます。孫策は劉勲を討つため、上繚の賊を討伐すると偽って劉勲を誘い出し、その隙に廬江を攻撃し、皖城を陥落させました。劉勲は黄祖に援軍を求めますが、孫策に敗れ、曹操に帰順しました。孫策は劉勲の水軍を手に入れ、黄祖討伐に向かいます。

孫策は虞翻を派遣し、豫章太守の華歆を降伏させ、僮芝を滅ぼし、韓当や蔣欽、周泰らを派遣して反乱を鎮圧しました。太史慈を豫章郡西部の都尉に任命し、劉表を牽制しました。これにより、孫策は江東、江南の大部分を支配下に置きました。

戦後：呉の建国へ

江東を支配下に置いた孫策は、その勢力を危険視した許貢によって暗殺されます。しかし、孫策の遺志を継いだ弟の孫権は、勢力を拡大し、後に呉を建国することになります。

孫策の江東平定は、呉の建国に不可欠な出来事であり、その戦略とリーダーシップは、後世に大きな影響を与えました。

関連項目

劉備の荊州江南制圧・入蜀（208年-214年）
曹操の躍進（191年-199年)

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