宝永三ツ宝丁銀

宝永三ツ宝丁銀（ほうえいみつほうちょうぎん）

宝永三ツ宝丁銀は、江戸時代中期の宝永7年（1710年）に鋳造された丁銀の一種で、秤量銀貨です。単に「三ツ宝丁銀」とも呼ばれます。また、宝永三ツ宝丁銀と宝永三ツ宝豆板銀を総称して「三ツ宝銀」と呼びます。

概要

表面には「大黒像」と「寳」の文字、そして両端に二箇所、内側に一箇所の計三箇所の「宝」字極印が打たれています。この「宝」字極印は、玉の上部がウ冠まで突き抜けている点が特徴で、二ツ宝丁銀と区別する際の重要なポイントとなります。「常是」の極印がないのは、元禄時代に大黒常是が失脚したことが理由です。祝儀用には「大黒像」極印を12箇所打った十二面大黒丁銀も存在します。

歴史

鋳造開始と背景

宝永7年4月1日、勘定奉行の荻原重秀の主導により、永字銀の鋳造からわずか1ヶ月足らずで、銀品位を下げる改鋳が開始されました。この改鋳は、将軍の決裁を得ないまま、銀座の内々の証文によって進められ、永字銀と同様に旧銀貨との交換や通用に関する触書は出されませんでした。

短命に終わった三ツ宝銀

三ツ宝銀の鋳造量は決して少なくはありませんでしたが、1年余りで四ツ宝銀への改鋳が行われたため、旧銀の回収と三ツ宝銀の普及は十分に進みませんでした。良質な慶長銀のように退蔵されることもなく、流通していたものも通用停止時にはほとんど正徳銀と交換されたため、現存数は永字丁銀と同様に極めて少ないです。

銀相場の混乱

相次ぐ悪銀の鋳造は銀相場を混乱させ、銀の種類ごとに異なる相場が立つという状況を生み出しました。正徳4年（1714年）に良質な正徳銀が鋳造された際、永字銀・三ツ宝銀・四ツ宝銀は、新銀・慶長銀の2倍の価値で通用する割合通用が定められましたが、銀品位が異なる3種を等価で通用させることは困難でした。その後、享保3年（1718年）の御触れにより、市場における割合通用が追認されることになりました。

通用停止

正徳銀が通用銀となった後も、しばらくは元禄・宝永期の各種銀貨が混在して流通しましたが、享保3年11月（1718年12月22日）に正徳銀が通用銀に変更されるまでは、永字銀、四ツ宝銀と共に通用銀としての地位を保持していました。しかし、享保7年末（1723年2月4日）に、元禄銀、二ツ宝銀、永字銀、四ツ宝銀と共に通用停止となりました。

宝永三ツ宝豆板銀

宝永三ツ宝豆板銀は、宝永三ツ宝丁銀と同品位の豆板銀です。「寳」文字と大黒像を中心に、小さい「宝」字が周囲に配列された「廻り宝」が基本で、「群宝」や「大字宝」などの種類も存在します。これらの「宝」字極印は、丁銀と同様に玉の上部がウ冠まで突き抜けている点が特徴で、二ツ宝銀と区別できます。また、玉の底辺の両側が跳ねていないことも特徴です。

三ツ宝銀の品位

『旧貨幣表』によれば、三ツ宝銀の規定品位は銀32%（六割四分八厘引ケ）、銅68%です。明治時代に造幣局が行った分析では、銀32.65%、雑分67.27%（主に銅、少量の鉛など）という結果が出ています。

三ツ宝銀の鋳造量

『吹塵録』によれば、丁銀と豆板銀の合計鋳造量は370,487貫余（約1,382トン）ですが、『月堂見聞集』では353,870貫余（約1,320トン）とされています。これは、発行途中の段階での数値と考えられます。

銀座の収入である分一銀は、鋳造高の10%と設定され、改鋳により幕府が得た出目（改鋳利益）は80,199貫余でした。

脚注

出典

参考文献は以下の通りです。

青山礼志『新訂 貨幣手帳・日本コインの歴史と収集ガイド』ボナンザ、1982年。
郡司勇夫・渡部敦『図説 日本の古銭』日本文芸社、1972年。
久光重平『日本貨幣物語』（初版）毎日新聞社、1976年。
石原幸一郎『日本貨幣収集事典』原点社、2003年。
小葉田淳『日本の貨幣』至文堂、1958年。
草間直方『三貨図彙』1815年。
三上隆三『江戸の貨幣物語』東洋経済新報社、1996年。ISBN 978-4-492-37082-7。
滝沢武雄『日本の貨幣の歴史』吉川弘文館、1996年。ISBN 978-4-642-06652-5。
瀧澤武雄，西脇康『日本史小百科「貨幣」』東京堂出版、1999年。ISBN 978-4-490-20353-0。
田谷博吉『近世銀座の研究』吉川弘文館、1963年。ISBN 978-4-6420-3029-8。
矢部倉吉『古銭と紙幣 収集と鑑賞』金園社、2004年10月。ISBN 978-4-321-24607-1。
日本貨幣商協同組合 編『日本の貨幣-収集の手引き-』日本貨幣商協同組合、1998年。

関連項目

日本の貨幣

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