宣統帝退位詔書

宣統帝退位詔書：中国皇帝制度の終焉

『宣統帝退位詔書』、正式には『清室退位詔書』は、1912年2月12日に清朝最後の皇太后である孝定景皇后によって公布された歴史的な文書です。この詔書は、清朝最後の皇帝であり、中国史においても最後の皇帝と認められた宣統帝（愛[[新覚羅溥儀]]）の退位を宣言し、中国における皇帝制度の終焉を象徴する出来事となりました。この詔書は単に皇帝の退位を告げるだけでなく、清朝が保有していた広大な領土（中国本土、満州、チベット、新疆、モンゴルなど）の主権を中華民国に譲渡するという重要な意味を持っていました。

歴史的背景

清朝は1636年に満州族によって建国され、1644年には明朝を滅ぼし中国を支配しました。しかし、19世紀後半になると、アヘン戦争や日[[清戦争]]などの対外戦争で敗北し、領土や属国を失う中で、清朝に対する国民の信頼は大きく揺らぎました。さらに、政治改革の失敗が重なり、立憲君主制を求める声が高まる一方で、皇族中心の慶親王内閣が成立したことで、国民の不満は頂点に達しました。

1911年10月には武昌起義を契機に辛亥革命が勃発し、清朝の支配は急速に崩壊しました。革命の勢いは各地に広がり、清朝は窮地に立たされました。この危機に対応するため、孝定景皇后は袁世凱を内閣総理大臣に任命し、北洋軍を率いて革命派の鎮圧にあたらせましたが、袁世凱は革命派との交渉も並行して進め、最終的に清朝の退位へとつながる道筋を作りました。

退位に至る経緯

辛亥革命勃発後、清朝は自力で革命を鎮圧することができず、袁世凱の北洋軍に頼らざるを得ない状況でした。しかし、袁世凱は清朝を擁護する一方で、革命派との交渉も行っていました。袁世凱は、清朝の優遇措置を保障する「清室優待条件」を革命派との間で取り決め、自らが中華民国の総統となることを目指しました。また、北洋軍の将軍たちは、袁世凱の許可のもと「段祺瑞等要求共和電」を送り、清朝に退位を迫りました。これらの圧力の中、当時の皇帝溥儀はまだ6歳で、政治的な判断能力がなかったため、孝定景皇后が垂簾聴政を行い、退位を決定することになりました。

詔書の公布とその後

退位詔書は、張朝墉によって収集され、同時に発布された他の二つの詔書と合わせて「遜清四詔」と呼ばれ、一冊にまとめられました。その後、北京師範大学学長の陳垣に譲られ、現在は中国国家博物館に収蔵されています。

この詔書の起草者については諸説ありますが、清朝の官僚であった張謇が有力候補とされています。ただし、詔書には通常捺される清朝の玉璽ではなく、孝定景皇后の私的な印である「法天大道」が捺されたのみでした。この印は、隆裕太后（孝定景皇后）の屈辱的な心境を表しているという説もあります。

詔書の内容と署名者

詔書には、清朝の終焉と中華民国への主権移譲が明記されています。この詔書には、内閣総理大臣の袁世凱をはじめ、当時の主要な閣僚が署名しており、その歴史的な重要性を示しています。

詔書の署名者

内閣総理大臣：袁世凱
署理外務大臣：胡惟徳
民生大臣：趙秉鈞
署度支部大臣：紹英
学務大臣：唐景崇
陸軍大臣：王士珍
署海軍大臣：譚学衡
司法大臣：沈家本
署農工商大臣：熙彦
署郵伝大臣：梁士詒
* 理藩大臣：達寿

関連文書と余波

溥儀の退位に関する詔書は複数存在し、1917年の張勲復辟の際にも退位詔書が発布されました。また、満州国の皇帝であった溥儀は、1945年にソ連軍の侵攻によって退位しています。

退位詔書と清室優待条件によって、溥儀は退位後も皇帝の称号を保持し、紫禁城に「遜清皇室小朝廷」が存在しました。しかし、1924年の北京政変によって、これらの特権は破棄されることになりました。この詔書は、中国の歴史において皇帝制度が終わりを迎えたことを示す重要な証拠であり、中国の近代史を理解する上で不可欠な文書です。清朝の終焉と中華民国の誕生は、その後の中国の歴史に大きな影響を与えることとなりました。

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