富士塚

富士塚とは

富士塚は、富士山への信仰を背景に、富士山を模して造られた人工の山や塚のことです。江戸時代には庶民の間で「お富士さん」と呼ばれ親しまれ、現代では「ミニチュア富士」とも呼ばれています。富士塚の多くは、富士講という富士山信仰の組織によって造営されました。

富士塚の特徴

富士塚の造営方法は、基本的には人工の山である築山と同様ですが、中には既存の丘や古墳を転用したものや、富士山の溶岩を積み上げて造られたものもあります。富士塚の山頂には浅間神社が祀られ、富士山の山頂にある浅間神社奥宮に対応する形になっています。また、富士塚の麓には、富士山麓の溶岩洞を模した「胎内洞穴」が造られることもあります。

富士塚は関東地方を中心に分布しており、富士山の山開きの日には、富士講の人々が富士塚に登山する習慣があります。富士塚は、基本的に富士山を望める場所に築造されますが、近年では建物の高層化により、直接富士山を見ることが難しくなっています。また、劣化防止のため、普段は立ち入り禁止となっている富士塚も多くありますが、富士山の山開き時期や催事の際には、登ることができるものもあります。

富士塚の登山道は、富士山になぞらえて「一合目、二合目…」と表示されていることがあり、富士山登山への思いを込めて登ることで、霊験あらたかであるとされています。富士塚は、富士信仰の文化を今に伝える貴重な存在です。

現存する主な富士塚

現在、多くの富士塚が各地に残っています。特に重要なものとしては、以下の5つが国の重要有形民俗文化財に指定されています。

江古田の富士塚（東京都練馬区）：茅原浅間神社境内にあり、富士山の溶岩で覆われています。
豊島長崎の富士塚（東京都豊島区）：富士浅間神社境内にあり、多くの石碑が残っています。
下谷坂本の富士塚（東京都台東区）：小野照崎神社境内にあり、登山道に合目石がみられます。
木曽呂の富士塚（埼玉県川口市）：埼玉県内最古の富士塚とされ、火口の跡があります。
志木の田子山富士塚（埼玉県志木市）：敷島神社境内にあります。

その他にも、東京都内には約50箇所、全国にも多くの富士塚が現存しています。

江戸七富士

江戸時代には、特に有名な7つの富士塚が「江戸七富士」と呼ばれ、人々に親しまれていました。現在でも、それらの富士塚を巡る「江戸七富士巡り」が行われています。

品川富士（品川神社境内）
千駄ヶ谷富士（鳩森八幡神社境内）
下谷坂本富士（小野照崎神社境内）
江古田富士（茅原浅間神社境内）
十条富士（十条冨士神社境内）
音羽富士（護国寺境内）
高松富士（富士浅間神社境内）

富士塚の歴史

富士塚の歴史は、1780年に高田籐四郎によって造られた高田水稲荷の富士塚が最古とされています。しかし、この富士塚は現在、移築されており、当時の場所に現存する最古の富士塚は、千駄ヶ谷富士となっています。江戸時代中期に富士信仰が盛んになると、江戸を中心に多くの富士講が生まれ、それに伴い富士塚も数多く造られました。

消滅した富士塚

信仰の変化や土地開発などの理由により、消滅してしまった富士塚も数多くあります。例えば、富山城に造られた磯部富士や、目黒にあった目黒富士などがその例です。これらの富士塚は、姿を消してしまいましたが、その名残を地名や記録の中に見ることができます。

富士塚を訪ねて

富士塚は、富士信仰の歴史と文化を伝える貴重な文化遺産です。富士山を訪れることが難しかった時代に、人々は富士塚に登り、富士山への信仰を深めました。現在でも、富士塚を訪れることで、当時の人々の信仰心や文化に触れることができます。多くの富士塚は、地域の人々によって大切に守り継がれています。機会があれば、ぜひ富士塚を訪れてみてください。

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