富士山-信仰の対象と芸術の源泉

富士山-信仰の対象と芸術の源泉



富士山は、2013年にユネスコの世界遺産に登録された日本の象徴的な存在です。その美しい姿は、古くから人々の信仰を集めるとともに、数々の芸術作品の源泉となってきました。この記事では、富士山の信仰、芸術、世界遺産登録の経緯について詳しく解説します。

信仰の対象としての富士山



富士信仰とは、富士山を神聖な山として崇拝する信仰であり、その明確な定義はありません。富士山の神霊である浅間大神とコノハナノサクヤビメを主祭神とする浅間神社が全国に存在し、その総本宮が富士山本宮浅間大社です。浅間大社は、富士宮市街にある「本宮」と山頂の「奥宮」で富士山の神を祀っています。江戸時代には徳川家康の庇護を受け、八合目以上が浅間大社の境内となりました。富士山への登山が広まるとともに、村山修験や富士講といった信仰のグループが生まれ、富士信仰を形成しました。

富士山への参詣者は「道者」と呼ばれ、登山における案内人は「先達」と呼ばれていました。村山口は、末代上人が開いた登山道を起源とし、これが最初の登山道と言われています。その後、大宮・村山口、吉田口、須山口などの登山道が開かれ、江戸時代には吉田口が最も利用されるようになりました。明治時代には御殿場口、新大宮口も開削されました。富士山神仏習合の対象にもなり、山頂は仏の世界と考えられ、大日如来が祀られていました。しかし、明治時代の神仏分離令により、これらの形態は大きく崩れ、仏像の破壊や名称の変更などが行われました。

芸術の源泉としての富士山



富士山は、古くから和歌の歌枕として親しまれ、『万葉集』には富士山を詠んだ歌が収められています。山部赤人の「田子の浦ゆうち出でてみれば真白にぞ富士の高嶺に雪は降りける」は特に有名です。また、『竹取物語』では、富士山が不老不死の薬を燃やす舞台として登場し、その名前の由来についても語られています。

富士山を描いた絵画は、平安時代に始まりました。現存する最古の富士図は、『聖徳太子絵伝』に描かれた中国山水画風の富士です。鎌倉時代には、三峰に分かれた富士の描写法が確立し、物語文学の舞台にもなりました。室町時代には、富士山と信仰の様子を描いた『富士曼荼羅図』が制作されました。江戸時代には、葛飾北斎の『富嶽三十六景』や歌川広重の『不二三十六景』などの浮世絵が登場し、富士山の多様な姿が描かれました。

これらの浮世絵は、西洋美術にも影響を与え、ジャポニスムの風潮を生み出しました。フィンセント・ファン・ゴッホの作品にも、背景に富士山が描かれています。富士山は、日本画、工芸、写真、デザインなど、あらゆる美術のモチーフとして扱われ、近代には日本の象徴として広く用いられるようになりました。多くの文人や画家が富士山麓に滞在し、富士山を題材とした作品を制作しています。武田泰淳武田百合子津島佑子太宰治新田次郎など、多くの作家が富士山をテーマにした作品を執筆しています。

世界遺産登録への道のり



1990年代初めから、富士山をユネスコの世界遺産に登録する運動が始まりました。当初は自然遺産としての登録が検討されましたが、IUCNからの指摘や地元調整の難航により、推薦が見送られました。その後、文化遺産としての登録を目指す方向で調整が進められました。

2005年には、山梨県静岡県が合同で「富士山世界文化遺産登録推進両県合同会議」を発足させ、構成資産の選定が行われました。当初は66件の構成資産が選定されましたが、最終的には25件に絞られました。2011年には、推薦書原案が文化庁に提出されました。しかし、本栖湖の登録を巡る地元との調整が難航し、推薦書の提出が遅れるなどの課題もありました。

2013年、イコモスの勧告を経て、富士山は正式に世界文化遺産に登録されました。当初、除外勧告が出されていた三保松原も、最終的には構成資産に含まれることとなりました。登録名は「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」となりました。

登録後の課題



世界遺産登録後も、登山者数の抑制や噴火時の危機管理対策など、保全状況の確認が求められています。また、三保松原における巡礼路の特定や構成資産外の巡礼路の特定など、追加要請も出されています。

構成資産



世界遺産登録の対象となったのは以下の25件です。

富士山


山頂の信仰遺跡群
大宮・村山口登山道
須山口登山道
須走口登山道
吉田口登山道
北口本宮冨士浅間神社
西湖
精進湖
本栖湖
青木ヶ原樹海

静岡県


富士山本宮浅間大社
山宮浅間神社
村山浅間神社
人穴富士講遺跡
白糸ノ滝
須山浅間神社
冨士浅間神社(須走浅間神社)
三保松原

山梨県


河口浅間神社
冨士御室浅間神社
河口湖
船津胎内樹型
御師住宅(旧外川家住宅)
御師住宅(小佐野家住宅)
吉田胎内樹型
山中湖
忍野八海(出口池)
忍野八海(お釜池)
忍野八海(底抜池)
忍野八海(銚子池)
忍野八海(湧池)
忍野八海(濁池)
忍野八海(鏡池)
忍野八海(菖蒲池)


登録基準



この世界遺産は、以下の登録基準を満たしています。

(3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠
(6) 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの

ガイダンス施設



富士山に関する公式なガイダンス施設として、山梨県富士山世界遺産センターと静岡県富士山世界遺産センターが開館しています。

富士山は、その美しい姿と豊かな文化によって、世界中の人々を魅了し続けています。

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