判事検事登用試験

判事検事登用試験とは

判事検事登用試験は、1891年（明治24年）から1922年（大正11年）にかけて実施された、日本の司法官（判事・検事）を任用するための国家試験です。この試験は、行政官を対象とした文官高等試験とは異なり、外交官の試験とともに、独自の試験体系を形成していました。

試験制度の概要

この試験は、判事検事登用試験規則に基づき実施され、合格者は司法官試補として実務研修を経て、最終的に判事または検事に任命されるという流れでした。試験は2段階に分かれており、まず第1回試験に合格後、1年6ヶ月の実地修習を経て、第2回試験に合格する必要がありました。ただし、帝国大学法科大学の卒業者は、第1回試験を免除され、直接司法官試補に任用される特例がありました。

1923年（大正12年）以降、司法官の任用試験は、行政官や外交官の任用試験と統合され、高等試験司法科として一元化されました。これにより、弁護士試験と判事検事登用試験も統一され、法曹資格の一元化が図られました。

試験内容の詳細

第1回試験

受験資格: 司法省が指定した学校（後述）の卒業者など。
試験期日: 年1回（10月または11月実施）
試験科目:
筆記試験: 民法、商法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法（1897年以降、憲法、行政法、国際公法、国際私法が追加）
口述試験: 上記5科目中3科目
試験場: 司法省

第2回試験

試験科目:
筆記試験: 2件の訴訟記録に基づく判決案の作成
口述試験: 民法、商法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法から3科目

試験の難易度と合格状況

第1回試験は合計で35回実施され、合格者の総数は1,738名でした。同時期に、東京帝国大学法科大学卒業者1,011名、京都帝国大学法科大学卒業者412名が、無試験で司法官試補に任用されています。試験は非常に難関で、1897年から1908年までの年平均では、出願者964名に対し、合格者は77名、合格率は8.0％でした。

司法官試補と弁護士資格

司法官試補の資格を有する者は、弁護士試験を経ることなく弁護士資格が付与されました。そのため、司法官試補任命後に、依願免官し弁護士として開業する者もいました。

帝国大学卒業者の特権と試験制度の変遷

明治末期になると、帝国大学法科大学卒業者が無試験で司法官試補となるケースが増加し、この特権に対する批判が高まりました。1923年（大正12年）に実施された高等試験司法科では、この特権が廃止され、全ての志願者が試験を受けることとなりました。

判事検事登用試験の前史

司法官の試験採用制度の始まりは、1884年（明治17年）の「判事登用規則」です。この規則で、「判事ニ登用スルハ法学士代言人及ヒ試験ヲ行ヒ及第シタル者ニ限ル」と定められました。それ以前は、自由任用や司法省法学校の卒業生からの任用が中心でした。

1885年から1887年にかけて、判事登用規則に基づく試験が5回実施され、合計682名の合格者が出ました。この合格者には、裁判所内の判事補・検事補・書記を対象とした部内試験合格者や、司法省法学校速成科卒業生が含まれています。その後、1888年から1890年にかけて行われた「高等試験」では、64名が司法官試補として合格しています。

司法省指定学校

判事検事登用試験の受験資格として、司法大臣が指定した公私立学校で3年以上法律学を修めた証明書を持つ者と定められていました。これにより、関西法律学校、日本法律学校、東京法学院、独逸学協会学校、東京専門学校、明治法律学校、慶應義塾、専修学校、和仏法律学校の9校が司法省指定学校として指定されました。

主な試験合格者

以下に、判事検事登用試験の主な合格者を列挙します。

仲小路廉（1887年合格、部内登用試験）
寺田栄（1887年合格、部内登用試験、明治法律学校卒）
有松英義（1888年合格、高等試験、独逸学協会学校卒）
小山松吉（1893年合格、独逸学協会学校卒）
林頼三郎（1897年合格、東京法学院卒）
尾佐竹猛（1899年合格、明治法律学校卒）
山岡萬之助（1899年合格、日本法律学校卒）
永田秀次郎（1899年合格、第三高等学校法学部卒）
秋田清（1901年合格、日本法律学校卒）
山崎今朝弥（1901年合格、明治法律学校卒）
月村清次郎（1901年合格、東京専門学校卒）
前田米蔵（1902年合格、東京法学院卒）
一松定吉（1903年合格、明治法律学校卒）
平出修（1903年合格、明治法律学校卒）
吉田久（1905年合格、東京法学院卒）
名川侃市（1907年合格、明治法律学校卒）
手代木隆吉（1921年合格、中央大学法学部卒）

まとめ

判事検事登用試験は、明治から大正にかけての司法官養成において、重要な役割を果たした試験です。難関試験ではありましたが、多くの有能な人材を法曹界に送り込みました。その後の制度改革を経て、現在の司法試験へと繋がっています。

参考資料

蕪山巌『司法官試補制度沿革』慈学社、2007年、ISBN 978-4-903425-28-3

関連項目

高等文官試験
弁護士試験
司法試験
裁判官
検察官
弁護士
法学部
法律学校 (旧制)
私立大学

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