小錦下

小錦下（しょうきんげ）とは

小錦下は、飛鳥時代の日本で用いられた冠位の一つです。具体的には、天智天皇3年（664年）から天武天皇14年（685年）までの約20年間、冠位制度の中に存在していました。

冠位制度における位置づけ

当時の冠位制度は26階から構成されており、小錦下はその中で12番目に位置していました。上位には小錦中が、下位には大山上が存在しました。この冠位は、一定の身分や功績を持つ人物に与えられ、その地位を示すものでした。

成立と変遷

小錦下の成立には、冠位制度の変遷が深く関わっています。天智天皇3年（664年）に、従来の小花上と小花下の2階を再編し、新たに小錦上、小錦中、小錦下の3階が設けられました。この背景には、大化3年（647年）に存在した「小錦」という冠位が、後に分割された経緯がありました。小錦下は、その名を復活・継承したものでした。

しかし、この冠位制度は長くは続きませんでした。天武天皇14年（685年）に冠位の命名方法が一新された際、小錦下は廃止されることとなりました。

小錦下に叙位された人物とその役割

『日本書紀』には、多くの小錦下に叙位された人物が記録されており、その数は冠位の中でも最多です。これは、小錦下が大夫（たいふ）という身分階層の下限を示すものであり、歴史に名前が残る機会が多かったためと考えられています。後の時代の従五位下に相当するとも言われています。

小錦下に叙位された人物は、外交、地方行政、軍事など、多岐にわたる分野で活躍しました。

外交使節

遣唐使: 河辺麻呂（白雉5年（654年）大使）、坂合部石布（斉明天皇5年（659年）派遣、道中にて死去）。
遣新羅使: 三宅入石（天武天皇4年（675年）副使）、采女竹羅（天武天皇10年（681年）大使）、高向麻呂（天武天皇13年（684年）大使）。
新羅使への対応: 河辺子首（天武天皇10年（681年）筑紫にて新羅使を饗応）。

その他

百済からの亡命者: 鬼室集斯（天智天皇4年（665年）叙位）。
寺院造営: 紀訶多麻呂（天武天皇2年（673年）造高市大寺司）。
地方官: 忍海大国（天武天皇3年（674年）対馬国司守）。
風神祭祀: 佐伯広足（天武天皇4年（675年）美濃王とともに祭祀）。
境界画定: 多品治（天武天皇12年（683年）諸国の境界画定）。
地形調査: 采女筑羅（天武天皇13年（684年）信濃の地形調査）。
帝紀編纂: 阿曇稲敷（天武天皇10年（681年）帝紀編纂の一員）。

小錦下に叙位された記録のみが残る人物

小錦下への叙位自体が重要視され、その記録のみが残る人物も存在します。

朴井子麻呂（天武天皇9年（680年）叙位）。
田中鍛師（天武天皇10年（681年）叙位）。
柿本猨（天武天皇10年（681年）叙位）。
田部国忍（天武天皇10年（681年）叙位）。
高向麻呂（天武天皇10年（681年）叙位）。
粟田真人（天武天皇10年（681年）叙位）。
物部麻呂（石上麻呂）（天武天皇10年（681年）叙位）。
中臣大島（天武天皇10年（681年）叙位）。
曾禰韓犬（天武天皇10年（681年）叙位）。
書智徳（天武天皇10年（681年）叙位）。
* 舎人糠虫（天武天皇11年（682年）叙位）。

死後贈位

壬申の乱での功績により、文成覚が死後に小錦下の位を贈られました。

その他の小錦下

尾張馬身や坂合部石敷も壬申の乱での功臣であり、生前に小錦下に叙位されています。

まとめ

小錦下は、飛鳥時代の日本において、政治、外交、文化など多岐にわたる分野で重要な役割を果たした人々に与えられた冠位でした。その歴史は短いながらも、当時の社会構造や人々の活動を理解する上で、貴重な情報源となっています。

小錦下に叙位された人々の活躍は、当時の社会の多様性と複雑さを物語っており、現代の私たちにとっても興味深い歴史の一コマと言えるでしょう。

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