粟田真人

粟田真人（あわたのまひと）

粟田真人は、飛鳥時代後期から奈良時代にかけて活躍した公卿で、その名を歴史に刻みました。姓は当初「臣」でしたが、後に「朝臣」に改められました。最終的な官位は正三位・中納言にまで昇り、当時の政治において重要な役割を担いました。

若き日の出家と唐での修学

若くして出家し、道観と名乗った粟田真人は、孝徳朝の白雉4年（653年）に第二回遣唐使の一員として、学問僧として唐に渡りました。唐では仏教を中心に学問を修め、その後の人生に大きな影響を与える経験を積みました。

還俗後の朝廷での活躍

帰国後、粟田真人は還俗して朝廷に仕えることになります。天武天皇10年（681年）には小錦下（後の従五位下に相当）に叙せられ、官僚としてのキャリアをスタートさせました。天武天皇13年（684年）には、八色の姓の制定に伴い、臣姓から朝臣姓へと改姓しています。天武天皇14年（685年）には、父から譲られた冠位をさらに譲ることを願い出ますが、これは認められませんでした。

持統朝では、大宰大弐として外国からの賓客をもてなす役目を担い、外交の舞台でも活躍しました。持統天皇3年（689年）には、隼人や布、牛革、鹿革などを朝廷に献上し、また、学問僧に対して新羅に贈るための綿を与えるなど、文化交流にも尽力しました。文武天皇3年（699年）には、山科山陵の修造にも携わっています。

大宝律令の編纂

粟田真人の最大の功績の一つとして、大宝律令の編纂への貢献が挙げられます。持統朝から文武朝にかけて、忍壁皇子や藤原不比等らと共に律令編纂に参画し、その完成に大きく貢献しました。文武4年（700年）にほぼ完成した律令は、翌大宝元年（701年）に大宝律令として施行され、日本の律令国家体制を確立する上で重要な役割を果たしました。この功績により、物品が与えられています。

遣唐使としての再度の渡航

大宝元年（701年）、第8回遣唐使の派遣が決まると、粟田真人はその最高責任者である遣唐執節使に任命されました。文武天皇から節刀を授けられたこの事例は、天皇が節刀を授けた初の例とされています。しかし、最初の渡航は風浪のため失敗に終わります。翌大宝2年（702年）に大伴安麻呂らと共に参議に任ぜられ、朝政に参加した後、再び唐への渡航を試み、見事に成功します。

この遣唐使は、天智天皇2年（663年）の白村江の戦い以来、初の本格的な使節派遣であり、国交回復と同時に、日本の律令制度の成立を唐に宣言するという重要な意味を持っていました。山上憶良や道慈らも同行したこの使節は、楚州塩城県に到着し、唐が武則天によって周王朝になっていることを知ります。大宝3年（703年）には、長安で武則天に謁見し、「好く経史を読み、属文を解し、容止温雅なり」と評され、司膳員外郎に任ぜられました。長安での見聞は、日本の都城や律令制度が中国と異なる点が多く、大きな衝撃を受けました。粟田真人は、帰国後にこれらの差異を報告し、その後の律令制改革に活かされることになります。

帰国と律令制改革への貢献

慶雲元年（704年）に帰国した粟田真人は、白村江の戦いで捕虜となっていた者を連れて帰国し、その功績により大和国の田と穀を与えられました。慶雲2年（705年）には、中納言に任命され、律令制改革である慶雲の改革に参画しました。唐での経験を生かし、実情に合わせた制度の修正を行い、和銅元年（708年）には、唐に倣った貨幣である和同開珎の発行や、平城京遷都の詔が発せられるなど、日本の国家体制の確立に大きく貢献しました。

和銅元年（708年）には大宰帥に任じられ、和銅8年（715年）に正三位に至りました。養老3年（719年）に死去しましたが、彼の功績は後世にまで語り継がれています。

官歴

以下に、粟田真人の官歴を『六国史』に基づいてまとめます。

白雉4年（653年） 5月12日：見学問僧
天武天皇10年（681年） 12月29日：小錦下
天武天皇13年（684年） 11月1日：臣姓から朝臣姓に改姓（八色の姓）
天武天皇14年（685年） 5月19日：見直大肆
持統天皇3年（689年） 正月9日：見筑紫大宰
時期不詳：直大弐
文武天皇3年（699年） 10月20日：山科山陵使
文武天皇4年（700年） 6月17日：賜禄（撰定律令）
時期不詳：民部尚書
文武天皇5年（701年） 正月23日：遣唐執節使
時期不詳：正四位下
大宝2年（702年） 5月21日：参議
慶雲元年（704年） 7月：帰朝。11月14日：賜大倭国田20町穀1000斛
慶雲2年（705年） 4月22日：中納言。8月11日：従三位
和銅元年（708年） 3月13日：大宰帥
和銅8年（715年） 4月25日：正三位
養老3年（719年） 2月5日：薨去（正三位）

粟田真人を題材とした作品

粟田真人を題材とした小説には、安部龍太郎氏の『迷宮の月』があります。

参考文献

青木和夫「粟田真人」『国史大辞典』吉川弘文館
梅村喬「粟田真人」『日本史大事典 1』平凡社、1992年、ISBN 4582131018
森公章『遣唐使の光芒 東アジアの歴史の使者』角川選書、2010年、ISBN 978-4047034686
宝賀寿男『古代氏族系譜集成』古代氏族研究会、1986年

関連項目

和珥氏
* 春日氏

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