尾上華丈

尾上華丈：時代劇を彩る名バイプレイヤー

尾上華丈（おのえ かじょう、1898年8月31日 - 1969年3月2日）は、日本の映画界において重要な役割を果たした俳優である。歌舞伎役者としてのキャリアを持ち、子役時代から舞台に立っていた華丈は、徹底した職人精神で時代劇を支えた名バイプレイヤーとして知られる。

1898年、神戸市で舞台の床山を職業とする父のもとに生まれた華丈。3歳年上の兄は、後に著名な俳優となる片岡松燕である。華丈自身も幼い頃から舞台に魅せられ、早くから俳優の道を歩み始める。「市川百々太郎」の名で子役として活躍した後、本格的な俳優としてのキャリアをスタートさせた。

1920年、兄と共に日活京都撮影所に入社。翌年には、牧野省三監督の代表作の一つである『実録忠臣蔵』に出演し、映画界デビューを果たす。兄が主人公の大石主税を演じたこの作品で、華丈は「市川百々太郎」の名で重要な脇役を演じている。その後、1924年からは「尾上華丈」と芸名を改め、本格的に俳優としての活動を続けることになる。

華丈は、日活京都撮影所に長らく在籍し、数々の作品に出演。持ち前の演技力で、作品に深みと彩りを加えた。バイプレイヤーとしての活躍が中心であったが、吉本清濤監督の『殺陣往来』（1928年）、渡辺邦男監督の『当り籤以上』（1929年）などでは主役を務めるなど、その実力は高く評価されていた。

1932年から1937年にかけては、片岡千恵蔵プロダクションに参加。片岡千恵蔵を支える重要な役者を務めた。その後、日活に復帰し、1942年の戦時統合による大映への合併後も、大映京都撮影所に残って活動を続けた。

戦後には、1949年に設立された東横映画、そして1952年の3社合併による東映京都撮影所と、常に時代を先駆ける映画制作現場に身を置き続けた。晩年まで第一線で活躍し、生涯を俳優として過ごした。

華丈の特技の一つに、見事な刺青を描く技術があった。その技術を生かし、大映京都撮影所製作の『弁天小僧』（1958年）では、主演の市川雷蔵の背中に美しい刺青を施したという逸話も残っている。

1969年3月2日、心臓病のため70歳で死去。数多くの作品に出演し、時代劇黄金時代を支えた名バイプレイヤーとしての華丈の功績は、今なお人々の記憶に深く刻まれている。その卓越した演技力と職人としての姿勢は、後世の俳優たちに大きな影響を与え続けている。

主なフィルモグラフィ

『実録忠臣蔵』（1921年、日活京都撮影所、監督・脚本：牧野省三） - 「市川百々太郎」名義
『忠次旅日記』（1928年、監督：伊藤大輔）
『高山彦九郎』（1928年、東亜キネマ京都撮影所、監督：後藤岱山） - 薄馬鹿（「市川百々太郎」名義）
『維新の京洛 竜の巻 虎の巻』（1928年、日活太秦撮影所、監督：池田富保） - 土方歳三
『王政復古 担龍篇 / 双虎篇』（1939年、監督・主演：片岡千恵蔵） - 沖田総司
『鴛鴦歌合戦』（1939年、監督：マキノ正博） - 道具屋六兵衛
『成吉思汗』（1943年、大映京都撮影所、監督：松田定次・牛原虚彦） - ヂェルメ
『獄門島』（1949年、監督：松田定次） - 辻井刑事
『阿波おどり 鳴門の海賊』（1957年、監督：マキノ雅弘） - 阿波屋徳兵衛
『風雲児 織田信長』（1959年、監督：河野寿一）
『壮烈新選組 幕末の動乱』（1960年、監督：佐々木康）
『十三人の刺客』（1963年、監督：工藤栄一）

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