山口組外伝 九州進攻作戦

『山口組外伝 九州進攻作戦』は、1974年に公開された東映の実録ヤクザ映画です。主演は菅原文太、監督は山下耕作が務めました。この作品は、1973年の『仁義なき戦い』の大ヒットを機に、東映が実録路線を推し進める中で製作されました。特に、山口組の全国進攻を題材とした作品が多数作られる中、本作は伝説的なヤクザである夜桜銀次（本名：平岡国人）をモデルに、彼の生涯を描いています。

物語の背景とあらすじ

1970年代初頭、東映は『仁義なき戦い』シリーズを皮切りに、実録ヤクザ映画という新たなジャンルを確立しました。その中でも、『山口組三代目』の成功は、山口組を題材とした映画製作を加速させました。本作は、その流れの中で、山口組の急先鋒として西日本で名を馳せた夜桜銀次を主人公に据え、彼の関わった主要な抗争事件を軸に物語が展開されます。具体的には、別府抗争、明友会事件、博多事件といった事件が、銀次の生涯を彩る重要な要素として描かれています。

夜桜銀次という男

全身に夜桜の刺青を施した夜桜銀次は、その破天荒な生き様で知られています。映画では、菅原文太がその粗暴で情熱的なキャラクターを熱演し、観客を魅了しました。彼は、既存の秩序を無視し、自らの信じる道を突き進むアウトローとして描かれています。

豪華な出演陣

菅原文太の他に、渡瀬恒彦、伊吹吾郎、津川雅彦、室田日出男など、当時の映画界を代表する豪華な俳優陣が脇を固めています。特に、渡瀬恒彦演じる古田憲一、伊吹吾郎演じる関本貫一（モデルは山本健一）、津川雅彦演じる吉村弘（モデルは山本広）、室田日出男演じる大東武司（モデルは柳川次郎）など、実在の人物をモデルにしたキャラクターが、物語に深みを与えています。

制作の裏側

本作の企画は、プロデューサーの日下部五朗が、飯干晃一が週刊誌に取り上げた夜桜銀次の記事を読んだことがきっかけでした。当時、夜桜銀次の名前はまだ一般には知られていませんでしたが、日下部は彼の生き様に映画化の可能性を見出しました。しかし、タイトルに「山口組」の文字を入れたことについて、山口組組長の田岡一雄からクレームが入るという一幕もありました。最終的には、東映の岡田茂社長がタイトル変更を拒否し、山口組への協力費を支払うことで決着しました。この一件からも、当時の映画界と暴力団との複雑な関係が垣間見えます。

興行成績と影響

タイトルに「山口組」の文字が入ったことや、同時上映の『殺人拳2』のヒットも相まって、本作は興行的にも成功を収めました。また、実録ヤクザ映画のブームをさらに加速させ、後の多くの作品に影響を与えました。

映画にまつわるエピソード

企画者の日下部五朗が、夜桜銀次の舎弟だった組に挨拶に行った際、雪隠詰めにされたというエピソードがあります。また、脚本の高田宏治は、夜桜銀次を知る人々に取材を重ねたものの、彼を褒める人は一人もいなかったと証言しています。銀次の破天荒さは、ヤクザの世界でも異質だったことが伺えます。さらに、安藤ふさ子役の渚まゆみが、本作撮影中に結婚したため、菅原文太との濡れ場が吹き替えになったというエピソードも、当時の映画界の裏側を伝えています。

実録路線の源流

本作は、後の実録路線を語る上で欠かせない作品です。暴力団の抗争をリアルに描き、その裏側に潜む人間ドラマを描くことで、多くの観客を魅了しました。また、山口組を題材とした多くの作品の基礎となり、その後のヤクザ映画の展開に大きな影響を与えました。特に、本作で描かれた明友会事件は、後の『日本暴力列島 京阪神殺しの軍団』や『実録外伝 大阪電撃作戦』といった作品にも影響を与え、暴力団抗争を題材とした映画群を形成する上で重要な位置を占めています。

関連作品

本作に関連する映画として、『仁義なき戦い 代理戦争』、『仁義なき戦い 頂上作戦』などのシリーズ作品、および明友会事件をモデルにした『日本暴力列島 京阪神殺しの軍団』、『実録外伝 大阪電撃作戦』、『日本の首領』などがあります。これらの作品群を合わせて鑑賞することで、当時のヤクザ社会の複雑な人間関係や抗争の歴史をより深く理解することができます。

『山口組外伝 九州進攻作戦』は、単なるヤクザ映画としてだけでなく、当時の社会情勢や映画界の裏側を映し出す鏡としても、重要な作品と言えるでしょう。

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