山梨岡神社

山梨岡神社は、山梨県笛吹市春日居町鎮目に位置する神社で、古くは「山梨権現」などと呼ばれていました。明治時代に現在の社名に改称され、式内社「山梨岡神社」に比定される旧郷社です。

位置と景観

甲府盆地の北端、笛吹川の支流である平等川の右岸に位置し、大蔵経寺山の東南麓に鎮座しています。社地は御室山の東麓にあり、東向きに建てられています。

社名

近世には「日光権現」「山梨権現」「山梨明神」などと呼ばれていましたが、明治元年(1868年)に現在の「山梨岡神社」に改称されました。

祭神

大山祇神、高龗神、別雷神の三柱を祀っています。社伝によると、創建当初からこの三柱の神々を祀っていたとされていますが、『延喜式神名帳』では、国家祭祀の対象とされたのは一柱のみであったとされています。

由緒

神社の発祥は、御室山を神体とする古代の信仰にまで遡ると考えられています。御室山の名称は、神霊の宿る山を意味するとされる大和国の「御諸山（三輪山）」と同じく、神聖な場所とされてきました。

社伝によれば、崇神天皇の時代に疫病が流行した際、勅命により御室山に三柱の神々を祀り、近郷の鎮守としたとされています。成務天皇の時代には、郡境を定めるにあたり、現在の社地に梨の木を伐採して遷座し、この地を「甲斐嶺山梨岡」と名付けたと伝えられています。

境内には、郡境の標識であったとされる「郡石」が残っています。鎮目の地は、かつての山梨郡山梨郷に比定されており、この社伝に従えば、山梨岡神社は郡名、そして現在の県名発祥の神社ということになります。

この地域は、古墳時代後期から古代にかけての考古遺跡が多数分布しており、古代甲斐国の中心地であったと考えられています。周辺には、奈良・平安時代の集落跡や古代豪族の氏寺と考えられる寺本廃寺などの官衙施設も存在します。

『延喜式神名帳』に記された甲斐国の式内社20社のうち、約半数の9社が山梨郡に所在していました。また、神社の東方にある「国府」という地名は、古代の甲斐国府の所在地であったとも考えられています。

能因法師が「甲斐が嶺に咲きにけらしな足引きのやまなしの岡の山奈しの花」と詠んだのは、当神社一帯の景色であり、国府に近いことから古くから有名であったと考えられています。

戦国時代には、武田氏が毎年参拝の使者を送っていたと伝えられています。武田氏からは氏神として崇敬を受け、出陣の際には各種の奉納が行われました。しかし、武田氏の衰退後、社職をめぐって橋立明神との争論が生じ、一時的に支配下に置かれることとなりました。

天正10年（1582年）の本能寺の変後、甲斐国は徳川家康の支配下に入り、徳川氏によって藤兵衛が祢宜職に復帰しました。天正11年には、家康から鎮目、小松、山崎、国衙などの諸郷からの神領が安堵され、摂社である四阿山権現の神領も安堵されました。

江戸時代には、朱印地と山林竹木などの諸役免除が認められ、歴代の将軍によっても踏襲されました。

明治5年（1872年）に郷社に列せられました。

神事

春と秋の2季に祭礼が行われます。かつては旧社地の御室山へ神輿の渡御が行われていましたが、現在は4月4日と10月15日に例祭が行われます。

春の例大祭では、2日間にわたり太々神楽が奉納されます。これは「武田信玄出陣の神楽」とも呼ばれ、武田軍が出陣の際に戦勝祈願のために奉納したとされています。舞い手は「舞子」と呼ばれ、かつては神職が務めていましたが、現在は氏子の中から選ばれています。囃子は太鼓、羯鼓、笛の3種類の楽器で奏でられます。

神楽は、天岩戸の物語を中心とした記紀神話の世界を表現するもので、24種類の舞が伝わっています。これらの舞は、古来からの構成を変えずに継承されており、奉納する場所を清める舞から始まり、天岩戸の舞、大山祇命の舞へと続きます。舞子は基本的に男性ですが、一部の舞では少女が舞い、最終の舞は大山祇神を演じるため、舞子長が務めます。また、四剣の舞は「久米舞」とも呼ばれています。

この太々神楽は、1967年（昭和42年）に山梨県の無形民俗文化財に指定されました。

夔ノ神

本殿前には「夔ノ神」と呼ばれる神像が祀られています。これは笛吹市指定の文化財で、中国の古代地理書『山海経』に登場する奇獣「夔」を模した像です。魔除け・雷除けとして信仰され、普段は拝観できませんが、7年に一度の例祭日に開扉されます。

この神像は、飛騨の匠によって作られたと伝えられていますが、その来歴は不明です。文献では、宝永3年（1706年）に荻生徂徠が訪れた際に記述が見られます。また、江戸時代には、夔神の真影が多数写され、大奥や御三家、旗本らに配られました。夔神信仰は、江戸後期に災害や飢饉などの社会不安から広まりました。

山梨岡神社は、山の神、水・雨の神、雷の神などを祀る神社ですが、夔神信仰の背景には自然に対する民間信仰が深く関わっていると考えられます。

社殿

本殿は室町時代末期の建立と推定されており、一間社春日造で、国の重要文化財に指定されています。拝殿は元禄15年（1702年）の建立で、仏堂を想起させる雰囲気があります。その他、神楽殿などがあります。

摂末社

摂社として吾妻屋宮が、本社の北方約1kmの場所に鎮座しています。日本武尊と弟橘姫命を祀っており、旧社地であるという説や、式内社の甲斐奈神社であるという説もあります。吾妻屋宮も、古くは甲斐国の総社であったとの伝えもあります。

その他、境内には天王宮と重大夫稲荷社の末社があります。

文化財

重要文化財（国指定）
本殿
棟札2枚
山梨県指定無形民俗文化財
太々神楽
笛吹市指定文化財
夔ノ神（彫刻）
フジ（天然記念物）

その他の情報

『国志』には、武田晴信の禁制や書状など、7通の古文書が収録されています。

山梨岡神社は、歴史と文化が息づく、山梨県を代表する神社の一つです。

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