川口浩 (俳優)

川口浩（かわぐち ひろし）

川口浩は、1936年8月22日に生まれ、1987年11月17日に51歳でこの世を去った日本の俳優、司会者、探検家、タレントでした。著名な作家で大映の専務も務めた川口松太郎と、女優の三益愛子を両親に持つ、華やかな芸能一家の出身です。

東京府で育ち、慶應義塾の幼稚舎から普通部を経て、慶應義塾高等学校を途中で退学した後、俳優座演劇研究所で演技を学びました。1956年、映画『裁かれる十代』で俳優としてデビューを飾り、同年には初主演作となる『処刑の部屋』でその存在が広く知られるようになりました。その後、大映現代劇を代表する若手二枚目スターの一人として、多くの映画で主役を務めます。京マチ子、若尾文子、山本富士子、岸恵子といった名女優たちと共演し、『巨人と玩具』、『妻は告白する』、『浮草』、『おとうと』などの話題作に出演し、その地位を不動のものとしました。

1960年には、後に「おしどり夫婦」として知られることになる女優の野添ひとみと結婚します。野添は松竹でデビューしましたが、交際を始めた川口が父・松太郎に働きかけ、大映に移籍させています。映画での共演も多く、数年間の交際を経て結婚に至りました。二人の間には娘が二人生まれました。

俳優業で成功を収めた川口ですが、1962年に大映を退社すると、実業家への転身を図ります。不動産管理会社である株式会社川口エンタープライズを設立し、アメリカ西海岸へ集合住宅の視察に赴くなど、精力的に事業を展開しました。特に、文京区にあった父・松太郎の広大な敷地を利用し、総工費7億円を投じて建設された自宅兼賃貸・分譲マンション「川口アパートメント」の運営は、彼の実業家としての顔を象徴する出来事でした。1964年10月1日に開業したこのアパートメントには、栗原玲児、藤村有弘、水谷八重子・良重親子、加賀まりこ、安井かずみ、月丘千秋といった著名人が数多く入居し、特に千葉真一・野際陽子夫妻は1972年から入居し、野際陽子は離婚後も生涯このアパートメントで過ごしました。

1967年には芸能界に復帰し、実業家と並行して活動を再開します。復帰後はテレビを主な舞台とし、1969年からは人気テレビドラマ『キイハンター』にレギュラー出演し、その存在感を示しました。また、フジテレビの競馬中継で妻の野添と共に司会を務めるなど、夫婦でのメディア露出も増えました。

そして、彼の名を社会現象にまで押し上げたのが、「探検家」としての活動です。1970年には、後の『川口浩探検隊』の原型となる番組『ザ・ショック!!』を日本テレビ系で企画・出演しています。そして1977年、『水曜スペシャル』（テレビ朝日系）で『川口浩探検隊』シリーズがスタート。未確認生物や秘境の謎に迫るこの番組は、大げさなナレーションや危機一髪の演出が人気を呼び、全43回にわたって放送される国民的な人気シリーズとなりました。蛇に襲われそうになったり、底なし沼にはまるなど、番組の多くのシーンは演出が加えられていましたが、視聴者はそれを承知の上で、毎回おなじみの展開をエンターテインメントとして楽しんでいました。その象徴として、嘉門達夫が番組をパロディ化した楽曲『ゆけ!ゆけ!川口浩!!』を発表し、ヒットしています。一方で、ジャングルなどの過酷な辺境でのロケが、実際には隊員たちにとって命がけであったことは、後に番組スタッフによって語られています。1983年にはブラジル魔境でのロケ中にピラニアに指を噛まれるという、演出ではない実際の負傷も経験しています。

川口浩は、実父、実母ともに癌を患って亡くしており、家族の病歴を非常に気にかけていました。そのため、ほぼ半年ごとに健康診断を受けるなど、自身の健康管理には人一倍注意を払っていたといいます。しかし、そうした努力にもかかわらず、1985年に胃癌との診断を受け、手術を経て闘病生活に入ります。一時は癌を克服したかに見えましたが、1987年、自宅での異変から検査を受けた結果、食道癌と喉頭癌が見つかりました。再手術が行われましたが、食道癌の除去手術の副作用として腎不全と肺炎を併発。同年11月17日、帰らぬ人となりました。享年51歳という若さでした。喉頭癌については、直接の死因とはなりませんでしたが、「役者として声を失うわけにはいかない」という本人の強い意志により、最期まで手術を受けなかったとされています。彼の墓所は雑司ヶ谷霊園にあります。

川口の生涯は、華やかなキャリアの一方で、家族の苦難も伴いました。弟の川口恒と川口厚、妹の川口晶は、1978年に麻薬事件で逮捕（晶は書類送検）され、「川口一家の麻薬汚染事件」として大きく報じられました。これを機に、恒は俳優業を引退し、晶も後に芸能界を離れています。また、母の三益愛子が1982年に、翌1983年には次女が17歳で、1985年には父の松太郎が亡くなるなど、近親者の死が相次ぎました。さらに、妻の野添ひとみも川口の没後、1995年に甲状腺癌で58歳で死去しています。末弟の厚も2008年に亡くなっています。

川口浩の死後も、特に『川口浩探検隊』シリーズは強いインパクトを残しました。2005年には初めてDVD化され、人気を再確認させました。また、探検隊の冒険が漫画化されるなど、今なお多くの人々の記憶に残り続けています。競馬ファンとしても知られ、自身も競走馬を所有するなど、多方面にわたる関心と活動を示した人物でした。

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