市ノ坪 (川崎市)

市ノ坪（いちのつぼ）

概要

市ノ坪は、神奈川県川崎市中原区に位置する住居表示未実施の大字です。面積は45.22ヘクタールで、中原区のほぼ中央に位置し、二ヶ領用水の左岸に沿って細長く広がっています。この地域は住宅地と工場が混在しており、国道409号（府中街道）が二ヶ領用水と並行して縦断しているほか、東急東横線、綱島街道、東海道新幹線、横須賀線など、多くの交通路が交差する交通の要衝でもあります。

地理

市ノ坪は、北東端で小杉町、新丸子東、中丸子、北谷町、田尻町と、南端で幸区鹿島田と、南西端で二ヶ領用水を挟んで苅宿、木月住吉町、今井南町と隣接しています。この地域は平坦な地形であり、二ヶ領用水とその分水である市ノ坪川が重要な水路として利用されていました。多摩川の氾濫もかつては度々発生していましたが、現在では治水対策が進んでいます。

歴史

市ノ坪は、条里制の遺構と考えられる地名を持つものの、詳しい歴史は不明な点が多いです。江戸時代には旗本の内藤氏領から天領、そして増上寺領へと移り変わり、幕末まで増上寺の所領でした。村高は時代とともに変動し、「武蔵田園簿」では200石、「元禄郷帳」では302石4斗余り、「天保郷帳」や幕末の「旧高旧領取調帳」では299石3斗余りでした。

江戸時代には二ヶ領用水や市ノ坪川が水利として利用され、花卉栽培が盛んに行われていました。特に池上幸豊がその様子を「与楽亭集」に書き残しているほどです。天明の大飢饉以降は、ヒエやジュズダマ、エンドウなども栽培され、農閑期にはしめ飾り作りも行われていました。

明治時代に入ると、花卉栽培はさらに広まり、大正時代にはフレームを使用した栽培、昭和には冷蔵庫を用いた促成栽培など、技術的な発展を遂げました。行政区画としては、住吉村から中原町、そして川崎市へと移り変わり、住吉村時代には小学校も設置されましたが、中原町になる頃に廃止されました。

大正末期以降、多くの鉄道が当地を通過するようになり、土地や水路、神社の参道が分断されるなどの影響を受けました。戦時中には軍需工場が設置され、食糧増産のため花卉栽培が中断されました。戦後、花卉栽培は一時的に復活しましたが、周辺の宅地化や交通の発達により衰退していきました。しかし、しめ飾り作りは現在でも続けられています。

地名の由来

市ノ坪の地名は、条里制における36区画のうちの「一ノ坪」に由来すると考えられています。しかし、条里制の遺構は明確ではなく、通常の6里四方よりも区画が小さかったとする説もあります。

沿革

1610年（慶長16年）：二ヶ領用水が完成。
1717年（享保2年）：当地が増上寺へ寄進される。
1770年（明和7年）：当地にしめ飾りの作り方が伝わる。
1868年（明治元年）：明治維新により神奈川県に所属。
1874年（明治7年）：大区小区制により第4大区第7小区に属する。
1889年（明治22年）：町村制施行により住吉村が成立し、市ノ坪はその大字となる。
1903年（明治36年）：住吉村立共盛尋常小学校が開校（1924年廃校）。
1916年（大正5年）：電線が引かれる。
1925年（大正14年）：住吉村と中原村が合併し中原町が成立、中原町市ノ坪となる。
1926年（大正15年）：東京横浜電鉄（現・東急東横線）が開通。
1927年（昭和2年）：南武鉄道（現・南武線）が開通。
1929年（昭和4年）：品鶴線が開通。
1933年（昭和8年）：中原町が川崎市に編入され、川崎市市ノ坪となる。
1939年（昭和14年）：東横線に工業都市駅が開業（1953年廃止）。
1960年（昭和35年）：市ノ坪川が暗渠化される。
1972年（昭和47年）：川崎市が政令指定都市に移行し、川崎市中原区市ノ坪となる。
1973年（昭和48年）：川崎市住宅公社による市ノ坪住宅が完成。

小字

地租改正時に、外屋敷、中村通、道内（みちうえ）、広町、田向、下橋場、新田、平間境の8つの小字が設定されました。

人口と世帯

2024年9月30日現在、市ノ坪の世帯数と人口は川崎市によって公表されています。詳細は関連データをご確認ください。

学区

市内の小・中学校に通う際の学区は、川崎市教育委員会の定める範囲となります。

事業所

2021年の経済センサス調査によると、市ノ坪には一定数の事業所が存在しています。詳細は関連データをご確認ください。

交通

市ノ坪には鉄道駅は存在しませんが、以下の路線が通過しています。

東急東横線・目黒線（武蔵小杉駅 - 元住吉駅間）
JR横須賀線・湘南新宿ライン（武蔵小杉駅 - 新川崎駅間）
東海道新幹線（品川駅 - 新横浜駅間）

また、東急バスが府中街道を経由して、川崎駅、武蔵小杉駅、溝の口駅を結ぶ路線を運行しています。

主要道路

国道409号（府中街道）
東京都道・[[神奈川県道2号東京丸子横浜線]]（綱島街道）

施設

法政通り商店街（一部）
東横化学本社
東計電算本社
新・川崎住宅公園

かつては三菱平間グラウンドがあり、三菱ふそう川崎硬式野球部の本拠地でした。

教育

川崎市立橘高等学校と川崎市立玉川中学校の敷地の一部が市ノ坪にかかっていますが、市ノ坪を住所とする学校は存在しません。

その他

郵便番号は211-0016（中原郵便局管轄）、警察は中原警察署が管轄しています。

関連項目

市ノ坪（曖昧さ回避）

参考文献

「市ノ坪村」『新編武蔵風土記稿』 巻ノ65橘樹郡ノ8、内務省地理局、1884年。
『川崎の町名』日本地名研究所 編、川崎市、1995年。
『川崎地名辞典（上）』日本地名研究所 編、川崎市、2004年。
『角川日本地名大辞典 14 神奈川県』角川書店、1984年。
新中原誌刊行会『川崎 新中原誌』有隣堂、1977年。

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