平成18年7月豪雨

平成18年7月豪雨 (へいせいじゅうはちねんしちがつごうう)

この豪雨は、2006年（平成18年）7月15日から24日にかけて、活動が活発化した梅雨前線が日本列島付近に停滞したことにより発生した記録的な大雨、およびそれに伴う一連の災害を指します。南九州を中心に、山陰地方、北陸地方、長野県など広範囲で被害が発生しました。

概要

7月15日から24日にかけて、梅雨前線が本州から九州にかけて停滞を続けました。この期間中、特に7月15日から18日、および23日頃には山陰、北陸、長野県で、19日から23日頃には九州地方で雨が強く降りました。

総雨量は多くの地点で非常に多くなり、特に宮崎県えびの市で1,281mm、鹿児島県さつま町紫尾山で1,264mmを記録するなど、わずか10日間ほどで年間降水量の約3分の1に達する雨量となりました。九州地方の複数の観測地点では、観測史上最多の雨量を更新しました。

九州南部では、国見山地、出水山地、霧島山周辺で特に降水量が集中し、7月15日から24日の総雨量が概ね700mmを超えました。しかし、これらの多雨地域からわずか100kmほどしか離れていない大隅半島や薩摩半島の南部では、同じ期間の降水量が100mmにも満たないなど、地域によって降水量の差が著しい特徴も見られました。

なお、この年は西日本において、梅雨前線による大雨が6月にも発生しており、6月21日から28日にかけての豪雨では、熊本県山都町で崖崩れにより1名の犠牲者が出ていました。

原因

平成18年7月豪雨の主な原因としては、複数の気象要因が挙げられています。

一つ目は、偏西風が約10日間にわたって日本付近で大きく蛇行したことです。これにより、本州から九州付近に停滞していた梅雨前線の北側に冷たい空気が流れ込みやすくなり、前線を南下させて長期間停滞させる原因となりました。

二つ目は、フィリピン東海上での大気対流が活発化したことなどにより、日本の南海上にある太平洋高気圧の勢力が例年よりも強かったことです。これにより、高気圧の縁を回って南から非常に暖かく湿った空気が日本の梅雨前線に向かって大量に流れ込みました。

停滞した梅雨前線付近では、強い寒気と湿った暖気が衝突することで雨雲が猛烈に発達し、その下で記録的な大雨が降ったと考えられています。

また、7月15日から18日頃にかけては、中国南部を進んだ台風4号の影響で、太平洋高気圧からの湿った暖気の流れ込みがさらに強まり、山陰、北陸、長野県の広範囲で長時間にわたり雨が降り続きました。その後、7月19日から23日には梅雨前線が南下して九州中部付近に停滞したため、九州地方で局地的な豪雨となりました。

この時期の偏西風の蛇行は、中央アジアの低温、中国中央部の高温、日本・韓国での豪雨、アメリカ西部の高温など、同時期に各地で異常気象を引き起こした一因ともされています。

被害

この豪雨により、各地で甚大な被害が発生しました。

人的被害については、消防庁の集計によると、全国で死者26人、行方不明者1人に上りました。

具体的な被害例としては：
7月19日には、福井県福井市、岡山県新見市、長野県岡谷市、長野県辰野町、京都府京丹後市、島根県出雲市、島根県美郷町などで、がけ崩れや土砂災害、土石流が発生し、複数の犠牲者が出ました。長野県上田市では、川に転落した女性1名が行方不明となりました。
7月20日には、岐阜県飛騨市で男性が用水路に転落して死亡しました。
* 7月22日には、長野県辰野町で土砂災害の復旧作業中の男性が心不全で死亡したほか、鹿児島県では大口市で道路冠水による濁流に女性1人が巻き込まれた事故、さつま町で男性が川に転落した事故、薩摩川内市や菱刈町で土砂崩れや土石流による犠牲者などが発生しました。

物的被害としては、多くの地域で建物や家屋の浸水被害が発生しました。また、がけ崩れなどにより、鉄道は芸備線、三江線、甘木鉄道などが、高速道路は山陰自動車道などが不通となりました。

関連事項

長野県におけるダムによる治水協力

特に被害が大きかった長野県では、犀川上流にある東京電力の発電用ダム群（奈川渡ダム、水殿ダム、稲核ダム、高瀬ダム、七倉ダム）が、本来は洪水調節を目的としていないにも関わらず、治水に協力しました。これらのダムは、発電に使用する貯水容量を除いた「空き容量」を活用し、集中豪雨による洪水を一時的に貯留することで、下流への放流を抑制しました。

通常、発電専用ダムは流入した水をそのまま下流に流しますが、この豪雨においては、これらのダムが国土交通省の大町ダムと連携し、下流の信濃川・犀川流域における水害の軽減に貢献しました。これにより、危険水位に達した地点はあったものの、堤防からの越流を防ぐことができました。

このような利水専用ダムによる洪水時の対応は、河川法や河川法施行令に規定されており、河川の機能を維持するために必要な措置をとる義務に基づいています。高瀬ダムなどはこの規定に該当し、洪水時にこうした操作が実施されています。

豪雨災害と「脱ダム宣言」

長野県では、岡谷市を中心とする諏訪地方で特に被害が集中し、死者・行方不明者11名、床上浸水1,043棟などの被害が出ました。当時、長野県知事を務めていたのは、公共事業見直しの一環として「脱ダム宣言」を掲げた田中康夫氏でした。田中知事は森林整備を重点とした災害対策を進める一方で、土砂災害を直接的に防ぐ砂防堰堤や治山ダムなどの予算を大幅に削減していました。このため、この豪雨災害は、田中知事の災害対策への批判材料の一つとなり、後に続く知事選挙での敗北につながった要因の一つとされています。当時の対立候補からは「災害対策を怠った結果であり、天の戒め」といった発言も出ました。

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