広東大元帥府

広東大元帥府：孫文による革命政権とその終焉

広東大元帥府（別名：中華民国陸海軍大元帥府大本営、広東大本営、広東革命政府）は、1923年3月から孫文が死去する1925年まで、中華民国広東省に存在した地方政権です。孫文は、この政権において政治・軍事の長として「大元帥」の称号を名乗りました。広州市に本拠を置き、第一次国共合作のもとで運営されたことが特徴です。

成立の背景：陳炯明の反乱と「連ソ・容共」路線

孫文が以前樹立した広東政権は、1922年6月に広東軍閥の陳炯明の反乱によって崩壊しました。この反乱は、孫文にとって大きな打撃となり、彼は上海へ脱出せざるを得ませんでした。この苦境を打開するため、孫文はソビエト連邦との連携、すなわち「連ソ・容共」路線へと舵を切ります。

当時、ソ連はコミンテルンを通じて、植民地や半植民地の民族解放運動との連携を模索しており、その対象として孫文の中国国民党を選びました。孫文自身も、ロシア革命の成功に感銘を受けつつも、日本やアメリカなどからの支援を得られなかったことから、ソ連の提案を受け入れざるを得なかったのです。

1923年1月、孫文はソ連政府代表アドリフ・ヨッフェとの共同宣言で「連ソ・容共」路線を明確にし、同年3月には北京政府に対抗する地方政権として広東大元帥府を組織しました。ソ連からは、政治顧問としてミハイル・ボロディンが、軍事顧問としてヴァシーリー・ブリュヘル（ガレン）らが派遣され、政権を支援しました。

国共合作の成立と党内対立

孫文・ヨッフェ共同宣言では、ソビエト制度が中国に適合しないことが明記されましたが、両者は思想的な差異を認めつつ連携し、中国国民党が上位に立ち中国共産党を受け入れる「党内合作」方式が採用されました。これにより、共産党員は個人資格で国民党に加入し、二重党籍を持つことになりました。しかし、この方式は共産党員からの反発もありましたが、コミンテルンの主導により強行されました。

第一次国共合作が成立したものの、国民党内部にも共産党との協力に反対する声があり、孫文の「赤化」を懸念する声が上がりました。孫文は、過去の革命運動における軍閥の裏切りから、連合戦線に加わる者に国民党の規律遵守を強く求めたのです。

中央執行委員会体制と黄埔軍官学校の創設

1924年1月、広州で開かれた中国国民党第一回全国大会（一全大会）では、ソ連の制度を模倣した中央執行委員会の体制が設置されました。中央執行委員には、孫文直系の人物に加え、共産党員も含まれ、アンバランスな構成となりました。また、党の軍隊を創設するため、蔣介石を委員長として黄埔軍官学校の設立準備が進められました。

1924年6月、孫文自らが総理となり、廖仲愷を党代表に選んで、黄埔軍官学校が創設されました。蔣介石が校長に任じられ、政治部副主任には共産党の周恩来が就任しました。この学校は、国民革命軍の中核を養成する機関として重要な役割を担い、蔣介石の台頭を促すことになります。

孫文の北上と客死、そして広州国民政府へ

1924年11月、孫文は北京政府の実権を握る段祺瑞からの招請を受け、「北上宣言」を発して北京へ向かいます。しかし、その途上で日本に立ち寄った際、日本政府から入国を拒否されます。その後、北京に到着するも、肝臓癌で倒れ、1925年3月に死去しました。

孫文の死後、広東大元帥府は再編され、1925年7月1日には中華民国国民政府（広州国民政府）が正式に成立しました。党内左派の汪兆銘が政府主席に就任し、新たな時代を迎えることになります。

広東大元帥府は短命な政権でしたが、第一次国共合作の成立、黄埔軍官学校の設立など、その後の中国革命に大きな影響を与えました。また、孫文の死後、国民政府が成立し、中国統一への新たな一歩を踏み出すことになったのです。

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