彭寵

彭寵（ほう ちょう）

彭寵（生年不詳 - 建武5年（29年））は、新末後漢初の武将で、字は伯通（はくつう）です。王莽（おうもう）や光武帝（こうぶてい）に仕えましたが、後に後漢に背いて自立しました。

生涯

理財の達人

彭寵は荊州南陽郡宛県（現在の河南省南陽市宛城区）の出身です。父の彭宏（ほうこう）は優れた容姿の大食漢・大酒飲みで、前漢の哀帝（あいてい）の時代に漁陽太守（ぎょようたいしゅ）を務め、北方の辺境で人望を集めました。しかし、王莽が実権を握ると、彭宏は王莽に与しなかったため、何武（かぶ）・鮑宣（ほうせん）と共に処刑されました。

若くして郡吏となった彭寵は、地皇年間に大司空士として大司空王邑（おうゆう）に仕え、劉秀（りゅうしゅう）らの反新軍を迎撃することになりました。しかし洛陽に到着した際、弟の彭純（ほうじゅん）が反新軍に加わっていることを知り、処刑を恐れた彭寵は、同郷の呉漢（ごかん）と共に、父が太守を務めていた漁陽へ逃れました。

更始元年（23年）、劉玄（りゅうげん）が更始帝（こうしせい）として即位すると、北方の幽州・并州の人々を取り込むため、謁者の韓鴻（かんこう）を派遣しました。韓鴻は彭寵や呉漢とは旧知の同郷人であったため、彭寵らは韓鴻を歓迎しました。これにより彭寵は偏将軍・漁陽太守、呉漢は安楽県令に任命されました。

その後、劉秀が河北鎮撫のために到来すると、彭寵は劉秀からの招聘に応じようとしました。しかし、王郎（おうろう）が天子を自称して河北で挙兵すると、その檄文が北方各地に伝えられ、多くの有力者が王郎に味方しようとしました。しかし彭寵は、呉漢の説得もあって、上谷太守の耿況（こうきょう）と共に劉秀を支援することを決断します。彭寵は呉漢を長史（太守次官）に任命し、都尉の厳宣（げんせん）・護軍の蓋延（がいえん）・狐奴県令の王梁（おうりょう）に歩兵・騎兵3千を率いさせて、劉秀の下に送りました。これにより彭寵自身は、劉秀から建忠侯に封じられ、大将軍に任命されました。

この時、彭寵は軍略よりもむしろ理財の才能を発揮し、後方支援によって王郎討伐における劉秀軍への補給を支え、その貢献は非常に大きなものでした。

朱浮との対立

彭寵は功績を誇り、次第に傲慢な態度が目立つようになりました。建武元年（25年）に劉秀が光武帝として即位した際、部下の呉漢や王梁が三公に任じられたにもかかわらず、彭寵には何の沙汰もなかったため、不満を募らせました。また、漁陽郡の監察役である幽州牧の朱浮（しゅふ）が、貧民に食料を与えるために城蔵を開こうとした際、彭寵は戦時中であることを理由に反対し、朱浮と対立しました。さらに朱浮は、光武帝に彭寵を讒言したため、彭寵の朱浮への不満と憎悪は増大しました。

建武2年（26年）春、光武帝は彭寵を召還する詔を出しましたが、朱浮が自分を讒言していると考えた彭寵は、朱浮との同時召還を願い出ました。また、彭寵は元部下の呉漢や蓋延に手紙を送り、朱浮が自分を陥れようとしていると訴えました。しかし、光武帝は朱浮の召還を認めず、彭寵は疑心暗鬼に陥りました。結局彭寵は、朱浮に反感を抱いていた妻や部下の勧めに従い、召還に応じませんでした。光武帝は、朱浮から彭寵の不満を聞いても、笑って受け流していました。

謀反と最期

光武帝は彭寵を宥めるため、人質としていた従弟の子后蘭卿（しこうらんけい）を送り返しましたが、彭寵は子后蘭卿を自軍に留め、ついに光武帝に叛旗を翻し、薊県に駐留する朱浮を攻撃しました。この時、彭寵は上谷太守の耿況も味方に誘いましたが、耿況は彭寵の使者を斬って拒否しました。彭寵は、光武帝が派遣した游撃将軍の鄧隆（とうりゅう）の軍を破り、さらに朱浮を破って薊を占領し、燕王を称しました。また、匈奴の呼都而尸道皋若鞮単于（ことじしどうこうじゃくだいぜんう）に貢物を贈って支援を受け、斉の張歩（ちょうほ）や富平軍・獲索軍（北方の地方軍）と同盟し、一大勢力を築きました。

建武4年（28年）、彭寵とその弟の彭純は、匈奴の軍勢と共に二手に分かれ、涿郡に駐屯する漢軍を攻撃しましたが、復胡将軍の耿舒（こうじょ）に邀撃され、匈奴の二王が斬られ、彭寵は敗走しました。さらに、追撃してきた耿舒とその父の耿況に軍都を奪還されました。

建武5年（29年）春、彭寵とその妻は、奴僕の子密（し・みつ）に自宅で暗殺され、2人の首級は光武帝に差し出されました。この件については、彭寵の妻が悪夢に悩まされたため占師に見てもらったところ、謀反の兆しであると言われたため、彭寵が光武帝の下から戻ってきた子后蘭卿を疑い、兵を自分の傍に置かなくなったことが原因であるという逸話が残されています。

子の彭午（ほうご）が尚書の韓立（かんりつ）に擁立されて燕王となりましたが、彭午も同年に国師の韓利（かんり）に殺害され、彭寵の宗族は皆殺しにされました。

参考文献
『後漢書』列伝2 彭寵伝
『後漢書』列伝8 呉漢伝
『後漢書』列伝9 耿弇伝
『後漢書』列伝23 朱浮伝

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