得宗専制

得宗専制とは

鎌倉幕府における得宗専制とは、北条氏の惣領である得宗に幕府の権力が集中し、専制的な政治が行われた状態、またはその時期を指します。鎌倉幕府の歴史を大きく3つに分けた場合、源氏将軍による支配、執権政治に続く、第3の時期にあたります。

概要

本来、鎌倉幕府は鎌倉殿（征夷大将軍）と個々の御家人の主従関係によって成り立っていました。北条氏もその一御家人に過ぎず、主君ではありませんでした。しかし、源実朝の死によって源氏将軍が途絶え、皇族や摂関家から将軍を迎える（宮将軍）ようになると、将軍は名目的な存在となり、代わって幕府を主導したのは有力御家人による合議機関である評定衆でした。この時点では、北条氏から選出された執権は、評定衆の長、現代で言う議長のような役割でした。

しかし、北条氏は権力闘争の中で有力御家人を次々と滅ぼし、評定衆を含む幕府の要職を独占することで、次第に実権を強めていきました。その過程で、幕府の公的な地位である執権よりも、北条氏の私的な地位に過ぎない得宗に権力が移行していき、得宗専制が成立しました。得宗個人に権力が集中したというよりも、北条一族、特に得宗家に権力が集中したと捉えるべきで、得宗家の執事に過ぎない内管領が実権を握った時期もあり、これも含めて得宗専制と称します。

経緯

得宗専制に至る経緯は以下の通りです。

時頼による権力強化: 5代執権北条時頼は、1246年の宮騒動で前将軍九条頼経を京都に送還し、翌年の宝治合戦で三浦氏を滅ぼしました。さらに1256年に執権を北条長時に譲って出家した後も幕府の実権を保持し続けました。時頼は、得宗への権力集中を進める上で、大きな役割を果たしました。

時宗の時代と元寇: 時頼の嫡男である北条時宗が8代執権となった時期に、元寇が勃発しました。この国難に対処するため、時宗の下に幕府の権力が集中するようになり、得宗の権威が高まりました。

霜月騒動: 1284年に時宗が急死した後、14歳の北条貞時が執権を継承しました。貞時の外祖父である安達泰盛と乳父である内管領平頼綱がこれを補佐しましたが、両者の対立が激化し、1285年の霜月騒動で平頼綱が安達泰盛とその支持者を滅ぼしました。この結果、平頼綱は外様御家人勢力を幕府の中枢から排除し、得宗の権力を強化、北条氏一門と御内人が幕府を支える体制に移行しました。

貞時による専制の強化と衰退: 成長した貞時は、平頼綱を滅ぼして権力を掌握すると、得宗への権力集中をさらに進めました。しかし、北条氏一門の庶家との対立が激しくなり、嘉元の乱で庶家の勢力を排除しようとするも失敗。その後、貞時は政務への意欲を失い、酒宴に明け暮れるようになり、幕府の主導権は再び寄合衆に移り、得宗は装飾的な存在へと祭り上げられました。

高時の時代と幕府の滅亡: 北条高時の時代になると、幕府は内管領長崎円喜や外戚の安達時顕などによる寄合によって運営され、高時が主導権を発揮することは求められませんでした。高時は1331年に長崎親子の排除を画策するも失敗。結局、高時が得宗として政治的な主導権を発揮することもないまま、1333年に御家人の足利高氏や新田義貞らによって幕府が倒され、得宗家も滅亡しました。

得宗専制の特徴

得宗専制下においては、以下のような特徴が見られました。

北条氏の惣領としての得宗: 得宗は北条氏一門に対する惣領としての地位を確立し、一門は評定衆、引付衆、六波羅探題、諸国守護などの要職を占めました。
御内人の台頭: 得宗家の郎党に過ぎなかった御内人が幕府機構に進出し、侍所などに役職を占めるようになりました。
寄合の重視: 得宗の私邸で開かれる寄合で、幕府の重要事項が決定されるようになりました。これにより、評定衆や引付衆による合議制に基づく執権政治は解体され、執権の権威は名目のみとなりました。

得宗専制の評価

通説では、霜月騒動以後の体制を得宗専制と呼びます。しかし、宮騒動以降の時頼による権力強化を得宗への権力集中の始まりと見る見解や、執権と得宗が分離した康元元年以後、時宗死去による外戚・御内の得宗補佐が確立した弘安7年以後とする説もあります。いずれにしても、得宗専制は、北条氏による権力独占が進行した結果であり、鎌倉幕府滅亡の要因の一つになったと考えられています。

参考文献

五味文彦「得宗専制政治」（『国史大辞典 10』吉川弘文館、1989年）
阿部猛「得宗専制政治」（『日本中世史事典』朝倉書店、2008年）
細川重男『鎌倉幕府の滅亡』（吉川弘文館〈歴史文化ライブラリー316〉, 2011年）
細川重男『北条氏と鎌倉幕府』(講談社〈講談社選書メチエ〉、2011年)

関連項目

源氏将軍
執権政治
得宗
執権
専制
独裁
* 独裁政治

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