御小袖

御小袖（おんこそで）とは

御小袖は、足利将軍家に代々伝わったとされる由緒ある甲冑です。足利尊氏が所用したと伝えられ、将軍の地位とともに受け継がれてきました。後には源義家伝来という伝承も加わり、その価値と神秘性を高めていきました。室町御所内には「御小袖の間」という特別な空間が設けられ、「御小袖御番」という役職の者が警護にあたるなど、厳重に管理されていました。北朝の軍事的象徴として、歴代将軍は出陣の際に着用、または帯同したとされています。

御小袖の歴史

御小袖の初見は『梅松論』下巻で、『太平記』巻27にもその記述が見られます。当初は足利尊氏の鎧として認識されていましたが、後に源義家伝来という伝承が加わりました。また、『運歩色葉集』には「丸太産衣」と同一視される記述もありますが、源太が産衣と同一とは考えにくい点も指摘されています。

御小袖の具体的な外観については、『梅松論』では唐綾威、『高忠陣軍聞書』では卯の花威と記述されています。

御小袖が実際に着用された記録としては、以下のようなものが残っています。

建武3年（1336年）：多々良浜の戦いにおいて、足利尊氏が「勢田の野田の大宮司」に着用させた（『梅松論』下巻）。
貞和5年（1349年）：観応の擾乱中に、高師直が将軍御所を包囲した際、足利尊氏が着用した（『太平記』巻27）。
明徳の乱：足利義満が出陣時に身につけた（『明徳記』）。
正長2年（1429年）：将軍に就任した足利義教が寝殿で着用した（『満済准后日記』同年3月9日条）。

足利義政の時代には、「御小袖御拝見」という将軍が御小袖を観覧する儀式が一代に一度行われることが慣例となり、義政自身も長禄4年（1460年）7月にこの儀式を行っています。また、足利義材も延徳3年（1491年）8月23日に御小袖御拝見を実施しています。

御小袖の間と警護

室町御所には、御小袖を安置するための専用空間として「御小袖の間」が設けられていました。この名称は足利義教の時代から見られますが、それ以前から御小袖が特別な空間に置かれていたことは史料から確認できます。

『満済准后日記』によれば、御小袖の間は寝殿の北向障子の西にあり、2畳の御座の上に白木の机が置かれ、その上に笹丸とともに御小袖が安置されていました。周囲は注連縄で囲まれ、神聖な場所として扱われていました。

また、御小袖の間には「御小袖御番」という警護担当者が配置され、厳重な警備が行われていました。足利義尚が近江に出陣した際には、陣所となった真宝館にも御小袖の間が設けられたことからも、その重要性が伺えます。

15世紀前半から16世紀にかけては、御小袖の間を新造して御小袖を移す際や、御小袖が京都に戻る際に儀式が行われ、御小袖は北朝王権の軍事的象徴としての地位を確立していました。

御小袖にまつわる神秘的な話

御小袖は、その存在自体が神秘的なものとして語られるようになり、『言継卿記』には、嘉吉の変の際に御小袖の間が鳴動したことや、足利義政の代にも同様の現象があったことが記されています。また、永禄の変の際にも日に3度の鳴動があったとされ、当時討たれた足利義輝は用心が足りなかったという見方もあったようです。

御小袖のその後

永禄の変の際、足利義輝が御小袖を着用して奮戦したという記述が『江陽屋形年譜』に見られますが、これは偽書とされています。実際には『言継卿記』に、御小袖の唐櫃が伊勢貞助によって警護され禁中に預けられたと記されており、『江陽屋形年譜』の記述は疑わしいとされています。

御小袖に関する言及は、『お湯殿の上の日記』を最後に、歴史から姿を消します。

現在、ニューヨーク・メトロポリタン美術館には、足利尊氏が篠村八幡宮に寄進したとされる甲冑が収蔵されています。この甲冑を御小袖と見る説もありますが、形式的に南北朝時代のものであり、尊氏所用とは断定し難いとされています。

参考資料

山上, 八郎『日本甲冑考』 1巻、三友社、1942年5月5日。doi:10.11501/1265719。
笹間, 良彦「伝説名甲物語（5） 足利家重代の鎧・御小袖」『甲冑武具研究』第13号、日本甲冑武具研究会、1967年6月2日、16-20頁、doi:10.11501/7952053、ISSN 0387-8155。
加栗, 貴夫「足利将軍家重代の鎧「御小袖」に関する一考察 : 「御小袖御拝見」の再検討を通じて」『青山史学』第35号、2017年、17-36頁、CRID 1390853649507423872、doi:10.34321/19852、ISSN 03898407。

関連項目

白糸褄取威大鎧 - 足利尊氏が篠村八幡宮に寄進したと伝わる鎧（兜・袖欠）。

もう一度検索