恒星の命名

夜空に輝く無数の恒星は、それぞれが固有の名前や符号によって識別されています。こうした恒星の命名は、天文学の発展とともに進化してきました。現在、天体の命名に関する国際的な取り決めは、国際天文学連合（IAU）が主導して行われています。しかし、多くの恒星に現在使われている名前は、IAUが設立される以前から受け継がれてきたものです。一方、明るさが変化する変光星や、新星、超新星のような突発的に現れる天体などは、必要に応じて随時新しい名前が付けられています。

肉眼で観察可能な恒星は約1万個ほど存在します。近代以前の星表（天体カタログ）には、その中でも特に明るい星々だけが収められていました。紀元前2世紀頃の天文学者ヒッパルコスは、約850個の恒星をリスト化しています。1603年にはヨハン・バイエルがこの数を約2倍に増やしました。これらの古い星表に載る星のうち、固有名を持つものはごくわずかで、多くは星表ごとに定められた記号が付与されていました。肉眼で見えるすべての恒星を網羅した星表が作成されるのは、19世紀になってからのことです。私たちの銀河系には、推定で2兆から4兆個もの恒星があると考えられていますが、現代の広範な星表でも、収録されている恒星の数はせいぜい数十億個に留まります。

固有名

特に明るい数百個の恒星には、古くから伝わる伝統的な固有名が付けられています。これらの名前の多くはアラビア語に由来しますが、ラテン語起源のものも存在します。

しかし、伝統的な固有名にはいくつかの課題があります。

同じ名前でも、地域や時代によってスペルが一定しない（例：アルマク）。
一つの恒星が複数の異なる名前で呼ばれることがある（例：ペルセウス座α星）。
古い星表の精度不足から、特定の名前がどの恒星を指すのか明確でない場合がある（例：アルニャート）。
異なる星座にある恒星同士が同じ名前を持つことがある（例：アルゲニブ）。

これらの問題から、極めて明るい星（シリウス、アークトゥルスなど）や、明るさに関わらず特に興味深い性質を持つ星（アルゴル、ポラリスなど）を除くと、伝統的な固有名を普遍的に使用することは困難です。肉眼で見える多くの恒星には、バイエル符号のような他の命名法が一般的に使われます。

伝統名に加え、一部の恒星には近代になって名付けられた英語名もあります。例えば、バーナード星は肉眼では見えないほど暗いにも関わらず、極めて大きな固有運動を持つため著名であり、発見者の名が冠されました。また、くじゃく座α星ととも座ε星は、1937年に英国の航海暦編纂機関が軍用の暦を作成する際に、ピーコック、アビオールと名付けられた例があります。これは、暦に含まれる星全てに名前を付けるという要請に応じたものです。

1899年にリチャード・ヒンクリー・アレンが出版した『星名とその意味』は、恒星名に関する重要な文献であり、アッシリア、バビロニア、シュメール、さらには中国の恒星名など、幅広い情報を収録しています。

天文学者や宇宙飛行士など、個人の名前にちなんで名付けられた恒星もあります。非公式な名前として使われ始め、後に専門分野で定着したものがほとんどです。これには、ギリシア神話以外では17世紀のコル・カロリ（チャールズ1世に由来）などが初期の例として挙げられます。

公式な固有名の承認

恒星の固有名は長らく、天文学者間の慣習として使用されており、公的な承認を受けたものではありませんでした。転機が訪れたのは2014年で、IAUが太陽系外惑星を持つ恒星系に対して固有名を付与することを決定し、「NameExoWorlds」という公募企画を実施しました。これにより、2015年に最初の19の系外惑星を持つ恒星とその惑星の固有名が公式に承認されました。

これを皮切りに、IAUの恒星命名に関するワーキング・グループ（WGSN）が2016年から固有名の公式承認を開始し、2017年2月時点までに240個の恒星名が承認されています。

恒星の命名権の売買

記念品として暗い恒星の命名権を販売する企業が数多く存在しますが、これらのサービスで名付けられた星の名前は、IAUによって承認された公式なものではありません。国際的な機関や登録簿に認証されるものではなく、結果として一つの恒星に複数の異なる名前が付けられたり、同じ企業内で複数の名前が与えられたりすることが起こり得ます。

カタログ番号

固有名が限られていることや問題点があることから、恒星を識別するための効率的な方法としてカタログ番号が広く用いられています。目的や方法に応じて、様々な種類のカタログが存在します。

星座ごとのカタログ

恒星命名の最初の近代的な試みは、星座ごとに分類して行うものでした。

バイエル符号: 1603年にヨハン・バイエルが発表。各星座内の恒星を明るさ順にギリシア文字で符号化する方式で、今日でも広く使われています。初版には1,564個の恒星が収録されました。
フラムスティード番号: バイエル符号と同様に星座内で恒星を番号付けしますが、ギリシア文字ではなく数字を用います。1712年にフラムスティードの同意なしに公表された初版には、2,554個の恒星が収められています。
グールド番号: ベンジャミン・グールドが1879年に発表した方式で、星座ごとに恒星をまとめつつ、赤経順に番号を付けます。

ヨハネス・ヘヴェリウスやヨハン・ボーデも同様に星座内の恒星に番号を付けましたが、これらのシステムは現在は使われなくなっています。ただし、きょしちょう座47のような例では、フラムスティード番号と誤解されることもあります。

全天カタログ

全天カタログは、特定の明るさ（視等級）以上の恒星を星座に依らず一覧化することを目的としています。

Histoire Celeste Francaise: 9等級より明るい4万7,390個の恒星を収録したジェローム・ラランドによるカタログです。
掃天星表 (Durchmusterung): 1859年に作成された、写真を使わずに作られた中で最も網羅的な星表。北半球の32万個の恒星を含み、後にコルドバ掃天星表やケープ写真掃天星表として拡張されました。
ヘンリー・ドレイパー・カタログ (HD): 1924年に発表され、10等級以上の22万5,300個を収録。1949年には35万9,083個に拡充されました。バイエル符号やフラムスティード番号がない恒星の識別によく用いられます。
輝星星表 (Bright Star Catalogue): 1930年に作成された、6等級より明るい恒星を収録したカタログ。1983年には7等級までの恒星を含む補遺が追加されました。
Catalogue astrographique: 1891年から1950年にかけて編纂され、11等級以上の460万個の恒星を収録することを目的とした大規模なカタログです。
オンラインのガイド星星表 (GSC): 2008年に公開された、21等級以上の9億4500万個の恒星を含む巨大なデータベースです。

特定の恒星の命名

変光星: バイエル符号などを持たない変光星には、それが変光星であることを示す特別な符号が与えられます。
* 太陽系外惑星を持つ恒星: 太陽以外の恒星の周囲に系外惑星が発見された場合、その恒星には発見に貢献した望遠鏡やサーベイミッションの名前と、そのミッションで発見された恒星の番号を組み合わせた名前が付けられることが一般的です（例：WASP-1、ケプラー4など）。

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