愚渓寺

愚渓寺の歴史

愚渓寺は、岐阜県可児郡御嵩町にある臨済宗妙心寺派の寺院で、山号は大智山です。その歴史は、応永3年（1396年）に妙心寺五世の義天玄承によって、現在の場所から約600メートル西の鈴ヶ洞に「愚渓庵」として創建されたことに始まります。

義天玄承は、尾張犬山の瑞泉寺で日峰宗舜（後の妙心寺四世）に師事し修行を積みました。応永35年（1428年）には印可状を受け、故郷の土佐へ帰りましたが、その後美濃に移り、寺を創建しました。18年間にわたり寺を護り、その後妻木氏に迎えられて崇禅寺の六世となり、さらに妙心寺の八世、大徳寺の三十九世となりました。

永享4年（1432年）、師である日峰宋舜が瑞泉寺から京都の妙心寺再興のために上洛することになったため、義天玄承は瑞泉寺の看坊職を務めることになり、7年後の永享11年（1439年）に愚渓庵に戻りました。同年3月16日には、大垣内右衛門浄珍、藤木道藤、今井左近宗源らが愚渓庵の背後の山を寄進しています。

嘉吉元年（1441年）まで、義天玄承が愚渓庵にいたことが確認されています。文安5年（1448年）4月27日には、押小路康盛から愚渓庵の西正面の財塚（宝塚）の寄進を受け、文安6年（1449年）3月27日には、鷲巣教康から高尾峯と放岡の寄進を受けました。高尾峯は当時の愚渓庵から見て南の峰、現在の愚渓寺から見て北東方向の峰、放岡はそこから西に続く山で、現在は墓地があります。同日付で、当時の美濃守護代の斎藤利永が寄進状を書き、4月3日には管領の細川勝元がこれを承認する施行状を出しています。これらの土地の寄進を示す絵図が愚渓寺に伝えられており、絵図の裏側には斎藤利永の裏証判が押されています。

細川勝元は後に義天玄承に帰依し檀家となり、宝徳2年（1450年）には石庭で有名な龍安寺を開基し、義天玄承が開山となっています。寛正3年（1462年）に義天玄承が示寂し、茂林宗栄が愚渓庵の二世となりました。茂林宗栄は、延徳元年（1489年）3月25日に示寂するまでの27年の間に、大徳寺にも出世しています。

永正3年（1506年）、三世の明叔慶浚の代に美濃守護職の土岐政房から、愚渓庵に「愚渓寺」という寺号が与えられたことを示す書状が残されています。この書状には、寺号の授与とともに、寺の維持や僧侶の修行を怠らないようにという指示が記されています。

永禄8年（1565年）には、兼山の金山城に森長可が入城し、愚渓寺は森氏の所領となりました。元亀元年（1570年）、愚渓寺四世の三芝等惟は、可児市広見柿田の正興寺を再興しました。

元亀3年（1572年）7月4日、武田信玄の重臣である秋山虎繁の軍勢が可児郡に侵攻し、願興寺に放火して全焼させました。この時、三芝等惟は衆徒20～30人を引き連れて願興寺に赴き、本尊や諸尊、創建以来の古文書を運び出しました。その中で、大力の僧が四天王の尊像を一人で担ぎ出し、愚渓寺の西の山に草庵を造って安置しましたが、その跡地は現在では薬師堂と呼ばれています。当時の愚渓寺は山の裏にあったため、武田勢に気づかれることなく難を逃れ、願興寺へ赴くことができたと考えられます。

天正12年（1584年）4月、森忠政は小牧長久手の戦いに際して、同年9月に愚渓寺に七ヶ条の禁制状を与えています。慶長6年（1601年）には大久保長安が、慶長7年（1602年）11月には仙石政長がそれぞれ愚渓寺に禁制を出しています。

鈴ヶ洞にあった当時の古図によると、塔頭として徳隣軒、雲松軒、涼霄軒、梅仙庵、寶塚庵が境内にあり、繁栄していました。これは美濃守護代の斎藤利永からの寺領の寄進状や、大久保長安からの寺領安堵状からも確認できます。

鈴ヶ洞は湿地で日照も悪く、時々山崩れもあったため、数代にわたって蓄財した資金を使って、現在の場所に移転することになりました。現在地への移転は天保10年（1839年）から嘉永2年（1849年）まで10年を要しました。

境内

本堂前の庭園には、竜安寺の石庭の原形になったともいわれる石庭が忠実に再現されています。東西約40メートル、南北約32メートルの1,300平方メートルの平地に、義天玄承が名付けた臥龍石を中心としています。臥龍石は、鈴ヶ洞の旧寺にもありましたが、動かすと祟りがあると言われていたため、似た石を臥龍石として配置しました。

庫裡の西には、多宝塔（池田町屋村の棟梁：野村作十郎による建築）があります。これは俗に二重塔と呼ばれている経蔵で、万延元年（1860年）に鈴ヶ洞から現在地に愚渓寺が移転したことを記念して創建されました。書院近くには、茶室の栽松軒があります。これは明治13年（1880年）に明治天皇が中山道御巡幸の際に、多治見の西浦家に宿泊された際に使用された茶室を、二十四世の太源清道が買い入れて移築したもので、師の号である栽松を取り入れています。

平成19年（2007年）には、本堂と位牌堂の新築工事が行われました。

寺宝

愚渓寺古文書（4巻）は岐阜県の重要文化財に指定されています。二重塔（多宝塔）のほか、明叔慶浚の頂相、足利義政の御教書、覚書（1巻）、斎藤利永の寄進状（1巻）、土岐政房の禁制（1巻）、森忠政の禁制（1巻）、大久保長安の禁制（1巻）が御嵩町の指定文化財に、宝塚古墳が県の史跡に指定されています。

交通

名鉄広見線 御嵩駅から徒歩で約10分です。

参考文献

『御嵩町史 通史編 上』　中世　第一章 中世の御嵩　第三節 中世の寺社　二　臨済宗妙心寺派の発展と愚渓寺　p239～p247　御嵩町史編さん室　1992年
『岐阜県百寺』　愚渓寺　p168～p169　郷土出版社　1987年

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