指矩

指矩（さしがね）は、建築や木工などの分野で用いられる、金属製のL字型をした計測工具です。一般的にはステンレスや鋼、真鍮などの素材で作られ、表面には目盛りが刻まれています。この目盛りを利用することで、木材などの材料の長さや直角を正確に測ったり、勾配を出す作業を効率的に行うことができます。また、「指金」「差金」「曲尺（きょくしゃく）」「かねじゃく」といった別名も持ち、JIS規格では「角度直尺」と表記されます。

指矩の形状は、L字型をしており、長い辺を「長手」、短い辺を「短手（妻手）」と呼びます。両方の辺には目盛りが刻まれ、さらに内側にも目盛りが設けられているのが特徴です。日本の計量法では、メートル法以外の基準を用いる計量器の販売が制限されているため、現在製造されている指矩の多くは、尺貫法の1寸に相当する尺目盛りでありながら、目盛りは33分の1メートル単位で刻まれ、「1/33m」と表示されています。メートル法で表記されたものも存在しますが、裏目を用いた規矩術では、尺目盛りの方が精度が高くなります。

指矩の裏面にも目盛りが刻まれており、これは「角目（かくめ）」と「丸目（まるめ）」と呼ばれます。角目は、表の目盛りの約1.414倍（√2倍）の単位で刻まれており、正確な45°の角度を作るときや、丸太から切り出せる最大の正方形の寸法を求めるのに使われます。一方、丸目は、その長さを約3.142倍（円周率）すると表の目盛りになるように刻まれており、丸太の直径から円周の長さを求めるのに使用されます。これらの目盛りを使うことで、計算尺のように複雑な計算を簡単に行うことができます。

指矩は、単に長さを測るだけでなく、幾何学的な応用によって、三角関数を計算することもできます。これにより、直角でない角度を持つ柱や屋根の傾斜など、複雑な構造物の寸法を正確に割り出すことができます。指矩の一般的なサイズは、長手が1尺6寸（約48cm）、短手が8寸（約24cm）、幅が5分（約15.1mm）ですが、1尺5寸7分×7寸5分のものも市販されています。かつては、幅が4分や3分の短いものも存在しました。メートル目盛りのものでは、長手が50cmのものが多く見られます。

指矩は、「曲尺（かねじゃく）」とも呼ばれます。このことから、指矩で使用される尺や寸の長さも「曲尺」と呼ばれるようになりました。曲尺という字が当てられるのは、直角に曲がった物差しであること、金属製であることから「かねじゃく」と呼ばれるようになったと考えられます。

また、「さしがね」という言葉は、表に出ずに他人をそそのかして何かをさせるという意味でも使われます。これは、大工道具の指矩とは異なり、芝居で使用される小道具が語源です。舞台裏から竿の先に針金を取り付けた道具で、蝶や鼠、人魂などを動かすもので、この道具が指矩に似ていることから転じたとされています。ただし、大工の親方が指示を出す際に指矩で人や物を指していたことが語源であるという説もあります。

雑学

中国の神話に登場する伏羲（ふっき）は、人面蛇身の姿で描かれ、手に指矩を持っていることがあります。これは、コンパスを持つ女媧（じょか）とともに描かれることが多く、彼らが世界の秩序を創造した神として象徴的に表現されていることを示しています。

脚注

関連する用語としては、墨壷、墨汁、けがき、スコヤ、計算尺、鯨尺、唐尺、魯班尺、定規などが挙げられます。

外部リンク

[金属]]製直尺（曲尺）のJIS規格 - シンワ測定: [https://www.shinwasokutei.co.jp/jisshikaku/kinzokusei_jishaku

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