撰国史所

撰国史所：日本の正史を編纂した機関

律令制下の日本において、国家の歴史を記した正史、六国史（『日本書紀』、『続日本紀』、『日本後紀』、『続日本後紀』、『日本文徳天皇実録』、『菅原文庫本日本三代実録』）や『新国史』（未完）の編纂を担った機関が撰国史所です。

律令制では、図書寮が国史編纂を所管することになっていましたが、当時の図書寮には、十分な史料や人材が揃っていなかったと考えられています。そのため、実際には天皇から任命された貴族や官人が国史編纂の重責を担いました。

『新国史』編纂に関する宣旨や『西宮記』『新儀式』などの史料によると、撰国史所は数代の天皇ごとに設置され、編纂事業に従事していました。組織の上層部には、大臣や大納言といった高位の貴族が別当として総裁役を務め、参議級の貴族が執行役として実務を指揮しました。さらに、記録の管理や記述を担う外記や、弁官、儒学者、歴史編纂に精通した官人などが組織に加わっていたと考えられています。

撰国史所の活動は、国史の編纂が完了すると終了するのが一般的でした。しかし、『続日本後紀』や『日本文徳天皇実録』のように、1代の天皇の治世のみを扱う国史も編纂されました。また、『新国史』のように、編纂事業が長期化し、最終的に完成しなかった例もあります。そのため、9世紀後半から10世紀前半にかけては、撰国史所のような事務機関が断続的に設置されていたとする説もあります。

なお、撰国史所という名称は、『新国史』編纂時の呼称です。『続日本紀』編纂時には「撰続日本紀所」と呼ばれていたことが、『日本後紀』延暦16年2月13日条から判明しています。しかし、他の国史編纂の際には、必ずしも明確な名称が使われていたわけではなく、広義の国史編纂機関を指して「撰国史所」という語が用いられている場合もあります。

撰国史所は、日本の歴史書である六国史や『新国史』の編纂という重要な役割を担った機関でした。その組織や活動、編纂事業の実態は、日本の歴史研究において重要な意味を持ちます。史料の不足や断片的な情報から、その全貌を完全に解明することは困難ですが、現存する史料から推測される組織体制や活動内容を知ることで、古代日本の政治・文化の一端を垣間見ることができます。また、撰国史所の活動を通して、当時の官僚機構や知識人の役割、そして天皇を中心とした政治体制について理解を深めることができます。今後の研究によって、さらに詳細な情報が明らかになることが期待されます。

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