放送管弦楽団

放送管弦楽団（ほうそうかんげんがくだん）、あるいは放送交響楽団（ほうそうこうきょうがくだん）は、主にテレビやラジオといった放送メディアでの演奏を目的として組織・運営されるオーケストラの一種です。その設立や活動形態は多岐にわたります。

放送局とオーケストラの関係は様々です。放送局がオーケストラを直接所有し、その運営を全面的に行う場合もあれば、特定の楽団に対して資金的な出資を行ったり、放送用演奏に関する専属契約を結んだりする形態も存在します。特にドイツでは、各地の公共ラジオ放送局が設立したオーケストラが多く見られます。これは、かつて番組の背景音楽などが放送現場で生演奏されることが主流だった時代に、各放送局に独自の楽団が設けられた歴史的経緯に由来しています。ただし、アメリカNBCが設立したNBC交響楽団のように、特定の放送局のために大都市で組織された例など、地域性に限られないケースもありました。

放送管弦楽団の規模は一様ではありませんが、一般的には3管編成、団員数70名程度の比較的中規模な編成であることが多い傾向があります。このような中規模の楽団は、主にオペレッタやポピュラー音楽、映画音楽、番組のテーマ曲などの伴奏や演奏を担当することが多く、演奏時間の長い大規模な交響曲や、複雑な構造を持つ現代音楽の新作初演などを主たる活動とすることは通常ありません。

一方、5管編成で団員数が120名を超えるような大規模なオーケストラも存在し、こうした楽団は「放送交響楽団」と称されることが多くあります。大規模な放送交響楽団は、放送用のスタジオ演奏だけでなく、定期演奏会を主催したり、国内外でのコンサート・ツアーを行ったりするなど、一般的なプロフェッショナル・オーケストラと同様の幅広い演奏活動を展開しています。

放送局という安定した基盤を持つことから、多くの放送管弦楽団は比較的恵まれた財政環境にあります。この安定性や、特に公共放送に属する楽団が持つ公益性という性格から、彼らはしばしば意欲的かつ社会的な意義を持つ活動に積極的に取り組んでいます。例えば、埋もれてしまった過去の音楽作品を発掘して演奏・録音したり、放送局独自の企画として新作を委嘱し、その初演や録音を行ったりする活動は、放送管弦楽団の重要な役割の一つです。また、定期演奏会においても、広く知られた人気の楽曲と、あまり演奏される機会の少ない珍しい作品を組み合わせるなど、刺激的なプログラミングを通じて聴衆に新たな音楽体験を提供しようとする試みも多く見られます。ドイツの公共放送連合ARDに加盟する各放送局が擁する放送交響楽団群は、このような活動の典型的な例として国際的に高い評価を受けています。

日本国内においても、放送管弦楽団は重要な存在です。最もよく知られているのは、日本放送協会（NHK）が保有するNHK交響楽団や、かつてNHK東京放送センターの専属だった東京放送管弦楽団などです。また、民間放送局では、日本テレビ放送網と讀賣テレビ放送が共同で読売日本交響楽団に出資し、その活動を支援しています。過去には、東京放送（現在の東京放送ホールディングス）が東京交響楽団と1964年まで、フジテレビジョン（現在のフジ・メディア・ホールディングス）と文化放送が日本フィルハーモニー交響楽団と1972年まで、それぞれ専属契約を結び、放送と連携した活動を行っていた歴史もあります。

世界には数多くの放送管弦楽団が存在します。ドイツのバイエルン放送交響楽団やケルンWDR交響楽団、NDRエルプフィルハーモニー管弦楽団などは特に著名です。イギリスにはBBC交響楽団、BBCフィルハーモニックなど、英国放送協会（BBC）が複数の楽団を擁しています。その他のヨーロッパ諸国では、フランス国立管弦楽団やフランス放送フィルハーモニー管弦楽団（フランス）、ウィーン放送交響楽団（オーストリア）、プラハ放送交響楽団（チェコ）などが主要な存在です。また、前述の日本の楽団に加え、韓国のKBS交響楽団などアジアにも例があります。かつてはアメリカのNBC交響楽団やカナダのCBC交響楽団、オランダ放送交響楽団のように存在したが今は活動していない楽団もあります。これらの放送管弦楽団は、時代とともにその形態や活動内容は変化しながらも、放送メディアの特性を活かして、様々な音楽ジャンルを多くの人々に届け、音楽文化の普及と発展に貢献し続けています。

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