新アッシリア帝国の軍事史

新アッシリア帝国（紀元前10世紀～紀元前7世紀）は、高度な軍事力で古代オリエント世界を席巻しました。本稿では、その軍事史を詳細に解説します。

軍事戦略の概要

アッシュル・ナツィルパル2世は、堅実な戦略で征服戦争を成功に導きました。彼は国境防衛に加え、経済的利益を確保するため、敵国深くまで遠征しました。シャルマネセル3世は35年の治世中31年を遠征に費やしましたが、アッシリアの支配は弱体化しました。ティグラト・ピレセル3世はアッシリアを近東最強の国家として復活させ、帝国としての体制を確立しました。シャルマネセル5世、サルゴン2世、センナケリブは、敵国の国力を削ぐことを目的とした遠征を繰り返しました。エサルハドンは下エジプトを攻略し、アッシュルバニパルは上エジプトを征服しました。しかし、長年の戦闘による人的資源の消耗と反乱の頻発により、アッシリア帝国は衰退し、紀元前605年に滅亡しました。

軍事力の背景

アッシリア帝国は、歴史上最初の軍事大国と言われています。メソポタミアは、最古の戦闘記録が残る地であり、ラガシュとウンマの紀元前2450年の戦いがその例です。アッカド帝国のサルゴンは、5400人の兵を率いてメソポタミアの大部分を征服しました。古アッシリアでは、イルシュマ王が小アジアに商業植民地を建設し、南メソポタミアを攻撃しました。中アッシリア時代には、シャムシ・アダド1世やその後継者たちが北部メソポタミアを支配し、アッシュル・ウバリト1世やティグラト・ピレセル1世などの王たちが帝国を強化しました。紀元前11世紀から紀元前10世紀は暗黒時代でしたが、アッシリアは安定した君主制と安全な国境により、周辺国よりも優位に立ちました。

軍の編成

アッシリア軍の階級制度は、当時のメソポタミアの典型でした。王は神によって正当化され、全軍の指揮官となりました。遠征の際には、王に代わる上級将校が任命されました。新アッシリア帝国は、戦車、騎兵、攻城兵器など、多様な兵器や戦術を活用しました。

ティグラト・ピレセル3世による軍制改革

ティグラト・ピレセル3世以前のアッシリア軍は、主に徴集された農民で構成されていましたが、収穫期には帰還する必要がありました。ティグラト・ピレセル3世は、常備軍を導入し、外国人兵士をアッシリア兵士に編入しました。これにより、アッシリア軍は通年での軍事活動が可能となり、帝国の拡大を支えました。常備軍の歩兵にはアラム人やギリシア人が採用され、騎兵や戦車部隊はアッシリア人が多数を占めました。サルゴン2世は、イスラエルの戦車部隊を自軍に編入しました。

軍事技術と兵站

アッシリア帝国の発展に伴い、交通と通信の需要が高まりました。アッシリア人は帝国中に道路網を築き、駅を配置した国家通信網を確立しました。これにより、軍隊の移動時間が短縮され、物資の輸送が円滑になりました。また、アッシリア人は軍事物資の運搬にラクダを初めて使用し、車輪に金属製のタイヤを大規模に生産しました。

武器

アッシリア軍は、槍、鉄剣、短剣、投げ槍、投石器、弓矢、戦車などを装備していました。戦車は高速で操作性に優れ、敵の側面を攻撃し、戦場を支配するために使用されました。紀元前1千年紀には騎兵が台頭し、戦車の役割は戦闘に限定されました。アッシュルバニパルの治世には、4人まで乗れる重戦車が開発され、敵陣を粉砕する役割を担いました。

騎兵

騎兵は、山岳地帯での戦闘に対応するために生まれました。騎兵は戦車部隊のように活躍し、敵を威圧し、戦場を支配しました。紀元前9世紀には、2人一組で運用され、一人が手綱を握り、もう一人が遠距離武器を使用しました。ティグラト・ピレセル3世の時代には、それぞれの騎兵が槍を持ち、自分の馬を操るようになりました。紀元前7世紀には、弓と槍で武装し、薄片鎧で身を固めた騎兵が登場しました。騎兵は帝国後期のアッシリア軍の中核を構成し、馬の供給はアッシリア王自らが監督しました。

歩兵

アッシリア帝国の歩兵は、安価で数が多く、包囲戦などで効果を発揮しました。歩兵は、アッシリア人と外国人補助兵で構成され、弓兵は盾兵によって護衛されました。投石兵が敵の注意を引きつけ、弓兵が矢を放ちました。ティグラト・ピレセル3世の時代には、槍兵も導入されました。青銅のうろこ鎧を身につけた歩兵も存在しました。

戦略と戦術

アッシリアの正面攻撃は、敵を驚かせるように計画されました。サルゴン2世は、ウラルトゥの敵軍を奇襲し、勝利を収めました。アッシリアの戦略は、敵に対する決定的な攻撃によって、自国の防衛を確立するというものでした。植民地化、都市の破壊、心理的な戦争、国外追放など、多様な戦略が用いられました。国外追放は、反乱に対する処罰として行われ、人々に恐怖を与え、帝国の運営を容易にする目的がありました。アッシリア王は、反乱者を厳罰に処し、残酷な処置を厭いませんでした。

包囲戦

アッシリア人は、包囲戦の技術を習得し、敵の都市を占領しました。エサルハドンは、エジプトの首都メンフィスを短期間で占領しました。包囲戦には、はしご、坑道、破城槌などの武器が使用されました。破城槌は、木の枠組みと車輪からなり、弓兵が乗り込み、城壁を破壊するために使用されました。攻城塔も用いられ、川がある場合には水に浮かぶものも使用されました。

年表（紀元前）

3千年紀～2千年紀：アッカドのサルゴンがメソポタミアを征服
1230年：ニネヴェが最盛期を迎える
9世紀：騎兵の使用が記録される、アッシュル・ナツィルパル2世が権力を握り、アッシリアの版図を広げる
8世紀：ティグラト・ピレセル3世が権力を握り、アッシリア軍の改革が行われる
7世紀：センナケリブがシリアとイスラエルを征服、エサルハドンがエジプトを攻撃、アッシュルバニパルがエラムを攻撃
紀元前631年：アッシュルバニパルが死去、アッシリアの衰退が加速する
紀元前612年：ニネヴェが陥落、破壊される
紀元前609年：ハッラーンが陥落、新アッシリア帝国が完全に消滅する

新アッシリア帝国の軍事史