日下部太郎

日下部太郎：幕末の志士、国際交流の先駆者

日下部太郎（くさかべ たろう、旧名：八木八十八）は、1845年に福井藩士の家に生まれました。幼少期から学問に励み、藩校明道館で漢籍や西洋の学問を修めました。その才能は早くから開花し、藩内でも将来を嘱望される存在でした。

藩士としての活動

1863年、八十八は父と共に藩兵として上洛し、京都の警備にあたりました。その後、第一次長州征討にも従軍するなど、藩士としての役割を果たしました。1865年には長崎に留学し、フルベッキが教える済美館で英学を学びました。この留学中、彼は横井小楠の甥である横井兄弟と出会い、彼らとの交流は後のアメリカ留学へと繋がります。

長崎留学中、八十八は幕末の動静を探る任務も担っており、その報告書は後の歴史研究において貴重な資料となっています。フルベッキやシーボルトを通じて得た情報は、当時の国際情勢や各藩の動向を詳細に捉えていました。

アメリカ留学と学問

1867年、日下部太郎と改名した八十八は、藩費留学生としてアメリカに渡りました。ラトガース大学では土木・機械工学を専攻し、数学の才能を高く評価されました。教授たちは彼の卓越した能力を称賛し、特に数学の分野においては、将来を嘱望されていました。また、ウィリアム・グリフィスとの交流を通じてラテン語を学び、国際的な視野を広げていきました。日下部の熱心な学問への取り組みは、周囲の学生たちにとっても良い刺激となりました。

日下部を含む9名の留学生は、明治維新後、日本政府初の官費留学生に認定されました。これは、彼らの才能と努力が認められた結果であり、彼らの留学が日本の近代化に貢献することが期待されたからです。

志半ばでの死

しかし、日下部は過労により肺結核を患い、1870年、卒業を目前にして24歳の若さで亡くなりました。病床にあっても、日下部はキリスト教への改宗を拒み、日本の学問への貢献を最後まで貫きました。彼の死は、ラトガース大学にとっても大きな損失であり、大学を挙げて葬儀が執り行われました。日下部の遺体は大学近くのウィロー・グローブ墓地に埋葬され、そこには日本語で「大日本 越前 日下部太郎墓」と刻まれた墓碑が建てられました。

ラトガース大学は、日下部の功績を称え、彼に卒業生と同等の資格を与えました。また、優秀な卒業生が選ばれるファイ・ベータ・カッパ協会の会員にも選出しました。その証であるゴールデンキーは、後に福井藩の教師となったグリフィスによって、日下部の父に手渡されました。グリフィスは、日下部の死を悼み、彼の故郷である日本へと渡ることを決意しました。

遺されたもの、そして国際交流

日下部の遺品は故郷に送られ、その蔵書は藩校に寄贈されました。彼の遺志は、その後の日米交流の礎となり、1970年代には、日下部の墓碑の修復をきっかけに、福井市とニューブランズウィック市が姉妹都市提携を結びました。また、福井大学を中心に、日下部とグリフィスの学術文化交流基金が設立され、現在も両国の交流を深める活動が続けられています。

日下部太郎の生涯は、幕末から明治にかけての激動の時代に、日本の近代化のために尽力した若者の姿を伝えています。彼の勇気と才能、そして国際的な視野は、現代においても私たちに多くの示唆を与えてくれます。

ウィロー・グローブ墓地と日本人墓地

ウィロー・グローブ墓地には、日下部以外にも、1871年から1886年の間に亡くなった7名の日本人留学生や関係者が埋葬されています。長谷川雉郞、松方蘇介、小幡甚三郎、入江音次郎、川崎新次郎、阪谷達三、高木三郎・須磨夫妻の長女などが眠っています。彼らの墓碑もまた、日米交流の歴史を物語っています。

しかし、これらの墓は長らく放置されていた時期もありました。1958年には地元紙によってその状況が報道され、在米邦人の尽力によって修復されました。その後も、幾度か修復が行われ、現在では多くの人々によって大切にされています。

日下部太郎の記念碑

福井市には、日下部の功績を讃える記念碑がいくつか建てられています。

堕涙碑：グリフィス記念館の敷地内にあり、吉田東篁が撰した追悼文が刻まれています。
日下部太郎とグリフィスの師弟像：足羽川河畔に設置され、両者の絆を象徴しています。

これらの記念碑は、日下部太郎の生涯と功績を後世に伝えるとともに、日米の友好関係を象徴する存在となっています。

日下部太郎は、その短い生涯の中で、学問に情熱を注ぎ、国際交流の先駆けとして活躍しました。彼の遺したものは、今もなお、福井とアメリカを結びつけ、両国の友好関係を深める上で重要な役割を果たしています。

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