日本やくざ伝 総長への道

日本やくざ伝 総長への道

1971年3月6日に封切られた本作は、東映京都撮影所が製作した高倉健主演のヤクザ映画です。巨匠マキノ雅弘が監督を務め、藤原審爾の小説『総長への道』を原作としています。舞台は昭和初期、博徒組織内で巻き起こる激しい内部抗争を骨太なタッチで描いた作品です。

当初、本作は高倉健を看板とする新たなシリーズ「日本やくざ伝シリーズ」の第一弾として企画されました。しかし、公開当時の東映におけるヤクザ映画路線の勢いに陰りが見え始めていた時期であったことも影響し、残念ながらシリーズとして継続されることはありませんでした。公開時には、「ずべ公番長シリーズ」の第4作にあたる『ずべ公番長 はまぐれ数え唄』（山口和彦監督、大信田礼子主演）が同時上映されました。

物語の概要

物語は上州高崎を拠点とする博徒組織「前田一家」の内部で展開します。主人公は前田一家の代貸である不動の竜太郎（高倉健）。彼の弟分にあたる仔分の大松（若山富三郎）は、想いを寄せる居酒屋の女将・お若（野川由美子）の店で、乱暴狼藉を働く流れ者をはずみで殺してしまいます。逮捕された大松は、出所後のお若との結婚を一方的に約束し、お若の身辺警護を竜太郎に託して獄へと入ります。

前田一家では、次期総長の座を狙う幹部の大宮（天津敏）が、竜太郎の失脚を画策します。大宮は子飼いの壺振り師・十郎にお若を誘惑させ、二人を駆け落ちさせてしまいます。お若が姿を消したことを知った竜太郎は、十郎の故郷である浜松へ飛び、二人を見つけ出しますが、地元の博徒・河合組に賭場荒らしと勘違いされ捕らえられてしまいます。その間に、目前でお若と十郎を逃がしてしまうのでした。竜太郎は河合組の貸元・河合（鶴田浩二）に仁義を切り、誤解を解きます。また、浜松では地元の造り酒屋から勘当された青年・信次郎（松方弘樹）につきまとわれるようになります。

高崎に戻れなくなった竜太郎は、大宮の思惑通り、兄弟分である兼蔵（大木実）が客分として身を寄せている大阪の「南善一家」へ向かいます。そこで、南善一家と大阪を縄張りとする「どぶ辰一家」との間で起こっている縄張り争いの調停に携わることになります。実はこれは、大宮が自身と通じているどぶ辰一家に竜太郎を暗殺させるための罠でした。しかし、信次郎や南善一家の機転によって、暗殺計画は未然に防がれます。この大阪で、竜太郎は河合と再会します。河合はどぶ辰一家の仔分であり、竜太郎と同様に縄張り争いの調停のために大阪へ来ていたのです。竜太郎と河合の話し合いにより、争いは一旦収まります。一方、竜太郎から「ヤクザだけにはなるな」と諭された信次郎は、どこかへ旅立ちます。

やがて竜太郎は京都の置屋で、遊女に身を落としたお若を発見します。お若は、大松が捕まる以前から肺結核を患っており、余命いくばくもない状態でした。竜太郎はお若を身請けして大阪の病院に入院させ、さらに十郎には大金を与えて満洲へ逃がします。

出所した大松は、お若の危篤を知って病院に駆けつけます。竜太郎は十郎のことを伏せていたため、大松はお若が竜太郎と駆け落ちしたのだと誤解し激怒します。お若は事の顛末を正直に話して大松の誤解を解き、さらに竜太郎に深く心を寄せていることを明かしながら、「竜太郎さんは指一本触れてくれなかった」と呟いて息を引き取ります。

どぶ辰一家の親分・辰五郎（遠藤辰雄）は権力への野心を捨てきれず、大宮と手を組み、南善一家の親分・南善（嵐寛寿郎）らを殺害します。南善の客分となっていた竜太郎は、恩ある親分の敵討ちのため、単身どぶ辰一家の事務所に乗り込みます。そこで、彼は皮肉にも河合と刃を交えることとなり、河合は命を落とします。そこへ、お若の遺髪を懐に忍ばせた大松が駆けつけ、竜太郎と共に辰五郎、大宮らを討ち取り、壮絶な抗争に終止符を打つのです。

出演者

本作には東映ヤクザ映画を代表する豪華キャストが集結しました。

不動の竜太郎（前田一家代貸）：高倉健
大松虎吉（前田一家仔分）：若山富三郎
和泉信次郎（造り酒屋の若旦那）：松方弘樹
獅子の兼蔵（前田一家仔分）：大木実
お才（南善の妻）：木暮実千代
お若（居酒屋「若水」の女将）：野川由美子
大宮益三（前田一家仔分）：天津敏
南善八郎（南善一家親分）：嵐寛寿郎
杉野辰五郎（どぶ辰一家親分）：遠藤辰雄
前田勇蔵（前田一家総長）：近衛十四郎
河合己之吉（どぶ辰一家仔分）：鶴田浩二

スタッフ

監督：マキノ雅弘
企画：俊藤浩滋、日下部五朗
原作：藤原審爾
脚本：高田宏治
撮影：赤塚滋
照明：増田悦章
録音：渡部芳丈
美術：井川徳道
音楽：木下忠司
編集：堀池幸三
助監督：本田達男

作品の評価

監督であるマキノ雅弘は、公開当時のインタビューで本作に対して率直な自己評価を述べています。彼は「総長」という言葉が本来ヤクザの世界にはないことや、ダメな人物の哀愁が魅力であるはずのヤクザ映画において、主人公が優等生になってしまった点を批判しました。また、同じようなヤクザ映画ばかりを作り続ける東映の体質についても言及しています。一方で、クライマックスの立ち回りにおける高倉健の迫力ある演技については高く評価しており、「あの子、本当に目が血走るもの。だから客席が『待ってました』だ」と語っています。

興行的には、封切り後の下番線であった新宿昭和館で立ち見が出るほどのヒットを記録しました。これは、当時の観客が依然として東映ヤクザ映画、特に高倉健主演作に大きな期待を寄せていたことを示しています。

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