『日本長暦』は、
延宝5年(
1677年)に
渋川春海によって編纂された日本最古の長暦です。全2巻で構成され、「長暦」とも呼ばれています。この長暦は、
神武天皇即位紀元直前の
紀元前667年から、渋川自身が制定した
貞享暦に完全移行した
1685年までの、2350年余りの元号、毎月朔日の
干支、月の大小、
閏月の有無などを詳細に記録したものです。
上巻では、まず日本の暦学史と本書編纂の目的が解説されています。
渋川春海は、自身が影響を受けた
垂加神道の説に基づき、伊弉諾尊が初めて日の運行を観測し、
神武天皇の時代に正月を年始とするようになったという説を提示しています。また、儀鳳暦以前には失われた上古の
暦法が存在したという仮説を述べ、古暦の復元と
貞享暦編纂の意義を説いています。続いて、暦表の凡例が暦の計算方法と実際の暦の関係について説明され、
紀元前667年から
697年までの暦日が収録されています。下巻では、
698年から
1685年までの暦日が扱われており、
698年の記事には二十四節気が全て記載され、それ以降は毎年
立春と
冬至の日付が追記されています。
渋川春海は、『日本長暦』編纂のために、『
日本書紀』が用いた
暦法を研究した『
日本書紀暦考』、
貞享暦とそれ以前の
宣明暦との比較を論じた『古今交触考』を著しており、これらを『日本長暦』と一体とみなすこともあります。
毎年編纂されていた具注暦や仮名暦とは異なり、過去の暦日を集成した長暦としては最古のものです。この『日本長暦』の影響を受け、安藤有益の『本朝統暦』や中根元圭の『皇和通暦』など、『日本長暦』を補完・訂正する形の長暦が編纂されました。また、『
大日本史』編纂に関与した
藤田幽谷は、長暦を作成しなかったものの、著書『暦考』の中で、
推古天皇12年(
604年)を元嘉暦導入の年とする説を唱えました。さらに、
高橋景保と土御門泰邦がそれぞれ渋川に続き、
1685年以降の長暦編纂を行っています。
近世に入ると、
本居宣長が『真暦考』(
1782年)にて、古来の日本には日時を意識する習慣は無かったという独自の主張を展開しました。近代以降は、科学的・歴史的な観点から修正が加えられた長暦が作成され、現在では『日本暦日原典』(1975年初版)が決定版として扱われていますが、『日本長暦』が日本の暦学・
暦法研究における重要な原典であることに変わりはありません。
『日本長暦』の写本は、
神宮文庫、
国立国会図書館、
宮内庁書陵部などに所蔵されています。
関連項目
上古天皇の在位年と西暦対照表の一覧
参考文献
桃裕行「日本長暦」(初出:『古典の事典』第8巻(
昭和61年(
1986年)、
河出書房新社)・再録:『桃裕行著作集 8』(平成2年(
1990年)、
思文閣出版))