明神

明神（みょうじん）とは

明神とは、日本の神仏習合において用いられた、仏教的な神の称号の一つです。特に、古くから崇敬を集めていた神々に対して、敬意を込めて用いられました。

歴史

古代における神の呼称

古代においては、神を指す名称として、神社名を冠した「大神」という呼び方が存在していました。また、『続日本紀』には、朝廷における社格制度として「名神」号が存在したことが記されています。これらは、明神号の成立以前の神に対する呼称として重要なものです。

「明神」号の初出

「明神」という言葉が文献上で初めて確認できるのは、天平3年（731年）の奥書を持つ『住吉大社神代記』です。この史料では、住吉大社の祭神である三柱の神を「住吉大明神」と記しています。ただし、この史料の製作年代には諸説あり、正確な年代は特定されていません。また、『門葉記』には、円仁が十二支の「如法経守護神」として「伊勢大明神」や「春日大明神」などを定めたという記述があります。これらの記述から、10世紀には「大明神」号が広く使われていたことがわかります。

平安時代における明神号

平安時代になると、特に崇敬される神々が「明神」または「大明神」と呼ばれるようになります。同じ資料の中で、同じ神が明神と大明神の両方で呼ばれている例もあり、明確な区別はされていなかったと考えられます。11世紀の『神名帳』の調査では、正一位・従一位の神階を持つ『国内鎮守の神』が「大明神」と表記されていたことがわかっています。

本地垂迹説と明神号

本地垂迹説が広まるにつれて、これらの大明神は、日本の人々を救済するために現れた仏教の仏の化身であると考えられるようになりました。『注好選』には、釈迦が「大沙明神」として現世に現れたこと、また『悲華経』に「我滅度後、於末法中、現大明神、広度衆生」という言葉があることが紹介されています（ただし、この言葉は実際の『悲華経』には存在しません）。このように、大明神号は仏教と深く関連付けられるようになりました。

中世から近世における明神号

中世から近世にかけては、神が本来の名前で呼ばれることは少なくなり、神社名を冠した「明神」や「権現」で呼ばれることが一般的になりました（例：「鹿島大明神」「香取大明神」など）。また、中世以降に成立した吉田神道では、神に対して「明神号」を授けることが行われるようになりました。豊臣秀吉の没後には、朝廷から「豊国大明神」の神号が贈られています。江戸時代初期には、徳川家康の神号をめぐって、天海の「大権現」案と、以心崇伝の「大明神」案が論争されました。幕末期には、岡山藩に弾圧された黒住教が、吉田家から黒住宗忠への明神号授与を正統性の根拠としていました。

明治時代以降の明神号

明治元年（1868年）の神仏判然令により、神号における仏教由来の言葉は取り除かれるよう指令されました。この法令では明神号自体は取り払うべき言葉とはされていませんでしたが、当時は明神号が仏教関連用語と見なされていたため、使用する神社は減少しました。しかし、現在でも「稲荷大明神」など、明神号・大明神号を使用している神社は存在します。

参考文献

中村一晴「平安期における大明神号の成立とその意義」『佛教大学大学院紀要. 文学研究科篇』第37巻、佛教大学、2009年、73-89頁、NAID 110007974761。

関連項目

名神大社
仏の一覧
本地垂迹
垂加神道
神明 (曖昧さ回避)

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