有峰県立自然公園

富山県富山市の南東部に位置する有峰県立自然公園は、北アルプス薬師岳の山麓、有峰湖を中心に広がる、面積11,600ヘクタールの広大な県立自然公園です。1973年3月13日に指定され、東側は中部山岳国立公園に隣接しています。公園の範囲は、有峰湖周辺に加え、鍬崎山（くわさきやま）一帯や祐延湖（すけのぶこ）周辺を含み、最高標高は2090メートルに達する山岳地帯です。

この公園の植生は非常に多様で、高山植物や日本海側特有の植物が多く見られる一方、内陸部の少雪地帯に分布する植物も確認されており、植物地理学的な「混乱地帯」として学術的にも興味深い地域となっています。

自然環境

植生

有峰県立自然公園には、高層湿原や高茎草原など、様々なタイプの植物群落が存在します。特に、大多和峠（おおたわとうげ）から東谷方向の県境稜線や鉢伏山（はちぶせやま）、東笠山（ひがしかさやま）の山頂付近に生育するアカミノイヌツゲ-クロベ群集、東笠山山頂の風衝地（風の強い場所）に見られるミヤマナラ群集は特徴的です。また、伐採跡や山火事の後に侵入するシラカンバ群落も見られます。

湿原の植生も豊かで、東笠山や鉢伏山に存在する湿原のミヤマイヌノハナヒゲ-ワタミズゴケ群集やダケスゲ群集、祐延湖畔に生育するリュウキンカ-ミズバショウ群集は、環境庁によって特定植物群落に指定されており、重要な保護対象となっています。

植物層

分布上特筆すべき植物種も多数確認されています。東笠山周辺では、マンネンスギ、タテヤマスゲ、ニッコウキスゲ、キリガミネアサヒラン、コバノトンボソウ、ヒメウメバチソウ、ツマトリソウ、イワイチョウ、ヒメシャクナゲなどが見られます。祐延地域では、ミヤマドジョウツナギ、タカネコウボウ、ミヤマホタルイ、カタクリ、コバイケイソウ、ヒオウギアヤメ、サワラン、テガタチドリ、ノビネチドリ、ミヤマアオイ、ウメバチソウ、シナノオトギリ、オオバキスミレ、オオカサモチ、ミヤマホツツジ、ハルリンドウ、エゾムカシヨモギ、リュウキンカなどが確認されています。折立（おりたて）地域では、ツバメオモト、ヒロハノユキザサ、アリドオシラン、オニノヤガラ、ヒマミヤマウズラ、ホザキイチヨウラン、イワオトギリ、エゾシオガマ、カンチコウゾリナなどが記録されています。

さらに興味深いのは、富山県内で有峰地域のみに生育が確認されている植物が9種あることです。これには、テバコワラビ、ウスゲタマブキ、ヒロハコヌカグサ、ミズギク、ヤナギタンポポ、アサノハカエデ、シオジ、シラカバ、そして現在は絶滅したとされるスズランが含まれます。これらの植物は、本州中部において主に内陸部に分布する傾向があり、有峰地域が日本海側の要素だけでなく、内陸の少雪地帯からも影響を受けている「混乱地域」であるという特徴を裏付けていると考えられています。

地理

公園内にはいくつかの主要な山岳があります。

鍬崎山: 「富山のマッターホルン」とも称される、尖った印象的な山容を持つ山です。山頂からは360度のパノラマが開けます。
大品山（おおしなやま）
極楽坂山（ごくらくざかやま）
鉢伏山
東笠山: 山頂には広い湿原が広がり、ヒメシャクナゲやニッコウキスゲといった美しい花々が咲き誇る花畑が見られます。
西笠山: 東笠山の広大な湿原とは異なり、比較的植生が良好で、ハイマツの藪が広がっています。
* 寺地山（てらじやま）: 中部山岳国立公園との境界に位置する山で、県立公園側の西斜面には、ミズバショウやニッコウキスゲなどが生育する湿地帯が広がっています。

園内を流れる主な河川としては、和田川（わだがわ）や小口川（こぐちがわ）があります。また、大多和峠のような峠も公園の一部を構成しています。

地質学的にも注目すべき点があり、東坂森谷（ひがしざかもりだに）の中流部には、手取層群（てどりそうぐん）に属するアンモナイトを含む砂岩の露頭（岩が露出している場所）が見られます。ここで産出される化石は、富山県内でも特に保存状態が良いとされています。

有峰県立自然公園は、豊かな自然景観に加え、特異な植生と植物分布、そして貴重な地質遺産を有する、多様な魅力を持つ地域です。

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