東笠山

東笠山

富山県富山市の熊野川源流部に位置する東笠山（ひがしかさやま）は、標高1687メートルの山です。富山の名峰を選定した「越中の百山」の一つに数えられています。

概要

東笠山は、わずかに標高が高い隣の西笠山（1697m）と向かい合うようにそびえています。しかし、富山平野からは西笠山ほどはっきりと視認されにくい特徴があります。

この山の最大の特徴は、森林限界に達しない標高でありながら、山頂部に約3ヘクタール、長径200メートルにも及ぶ広大な草原が広がっていることです。この特異な植生は、主に二つの要因によって形成されたと考えられています。一つは、強い季節風が吹き付けることによる風衝（ふうしょう）作用（風衝草原）。もう一つは、山頂部の地質である有峰層が、植物の生育を妨げる強酸性の土壌（ポドゾル）を形成していることです。隣接する西笠山にも一部草原は見られますが、大部分はハイマツ帯であり、東笠山とは植生が大きく異なります。

草原となっている山頂部からの展望は素晴らしく、周囲の山々を360度見渡すことができます。

東笠山と西笠山の間には、かつての有峰街道が通っており、現在でもその一部に旧道の痕跡が残されています。

生態

広大な山頂草原には、多様な高山植物が自生しています。ニッコウキスゲやワタスゲ、モウセンゴケ、イワイチョウ、タテヤマリンドウ、チングルマなどが豊富に見られます。この植生は、立山連峰の弥陀ヶ原の湿原植生と類似点が多いとされています。しかし、特筆すべきは、近隣の湿原には見られないヒメシャクナゲの大規模な群生が存在することです。

山の中腹はササに覆われている場所が多いですが、沢沿いではミズバショウが群生しています。

また、東笠山の山頂部は有峰地域でも有数のギフチョウの大規模な生息地としても知られており、その生態系の豊かさを示しています。

その自然環境の学術的価値の高さから、「原生林もしくはそれに近い自然林」であり、かつ「特殊な立地に特有な植物群落」である東笠山の湿性植物群落は、富山県の特定植物群落に指定されています。これは、この山が持つ独自の生態系と植生の重要性を物語っています。

主な湿原植物としては、以下のような種類が見られます。

高層湿原植物: ミヤマイヌノハナヒゲ、モウセンゴケ、ワタミズゴケ、ウツクシミズゴケ、ミカヅキグサ、ヤマトキソウ、アサヒラン、ダケスゲ、キンスゲ、ワタスゲ、エゾホソイなど。
中層湿原植物: イワイチョウ、ナガモノワレモコワ、イワショウブ、タテヤマリンドウ、チングルマ、キンコウカ、ショウジョウスゲ、ショウジョウバカマ、ミツバオウレン、コイワカガミ、コバイケイソウ、ミヤマリンドウ、シラネニンジンなど。

その他、低木としてハクサンシャクナゲ、ヒメシャクナゲなどが、湿原以外ではミズバショウなどが見られます。

地質

東笠山の山嶺部は、安山岩類の一種である普通輝石角閃石石英安山岩が貫入して形成されています。一方、山麓部は白亜紀に堆積した砂岩と頁岩が交互に重なった地層（和佐府互層）から構成されています。

登山

東笠山には整備された登山道は存在しません。一般的なアクセスルートとしては、有峰林道小口川線を利用し、延祐ダム湖（延祐貯水池）から沢を詰めて登る方法があります。このルートでは、山頂までおよそ1時間半程度で到達できます。一部で藪を漕ぐ必要はありますが、積雪のない時期であれば十分に登頂が可能です。

東笠山は、その特異な地形、植生、そして豊かな生態系により、自然愛好家や研究者にとって魅力的な山と言えるでしょう。

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