有泉龍之助

有泉龍之助：潜水艦戦を主導した悲劇の軍人

有泉龍之助（ありいずみ たつのすけ）は、1904年（明治37年）4月16日に生まれ、1945年（昭和20年）8月31日に自決した、日本の海軍軍人です。最終階級は海軍大佐。

生い立ちと初期の軍歴

東京府出身で、旧幕臣で日本海海戦にも参加した海軍主計中佐・有泉庚午の長男として生まれました。静岡中学校を経て、1923年（大正12年）7月に海軍兵学校（51期）を卒業し、1924年（大正13年）12月に海軍少尉に任官しました。その後、海軍水雷学校高等科、海軍潜水学校（乙種学生）で学び、潜水艦のエキスパートとしての道を歩み始めます。

潜水艦乗りとしてのキャリア

1931年（昭和6年）4月、「呂号第六十四潜水艦」乗組を皮切りに、装甲巡洋艦「浅間」分隊長、「伊号第五十一潜水艦」「伊号第百五十六潜水艦」「伊号第七十潜水艦」で水雷長を歴任。1937年（昭和12年）7月には海軍大学校（甲種35期）を卒業しました。佐世保警備戦隊参謀、第3潜水戦隊参謀、「呂号第三十三潜水艦」長を経て、軍令部第1部第2課部員となり、潜水艦の運用における中心的な役割を担いました。

真珠湾攻撃と太平洋戦争

1940年（昭和15年）11月、海軍中佐に進級。有泉は、真珠湾攻撃において特殊潜航艇「甲標的」の使用を強く主張し、その実現に大きく貢献しました。太平洋戦争開戦後は、1942年（昭和17年）3月に第8潜水戦隊参謀、第11潜水戦隊参謀、「伊号第八潜水艦」長を歴任。1944年（昭和19年）10月には海軍大佐に進級し、同年12月15日には第六三一海軍航空隊司令兼副長に就任しました。

終戦と壮絶な最期

1945年（昭和20年）1月1日、第1潜水隊司令を兼務。同年7月23日、ウルシー環礁に在泊する連合軍艦船攻撃の命を受け、「伊号第四百一潜水艦」に座乗して大湊を出撃しました。しかし、攻撃開始直前に終戦を迎え、現地で降伏命令を受けることになります。艦内では自沈か攻撃かで激論となりましたが、最終的には艦長の判断で帰還が決まりました。帰還途上の8月29日、米海軍の潜水艦セグンドにより拿捕され、司令室で自決しました。机の上には、真珠湾攻撃で戦死した九軍神の写真が置かれていたといわれています。遺体は、米軍の目を盗んで密かに水葬されました。

有泉龍之助は、その生涯を潜水艦戦に捧げ、太平洋戦争という激動の時代を駆け抜けた悲劇の軍人でした。彼の決断と行動は、日本の潜水艦戦史において重要な位置を占めています。

参考文献

秦郁彦 編著『日本陸海軍総合事典』（第2）東京大学出版会、2005年。
外山操編『陸海軍将官人事総覧 海軍篇』芙蓉書房出版、1981年。ISBN 4-8295-0003-4。
外山操『艦長たちの軍艦史』光人社、2005年。ISBN 4-7698-1246-9。
半藤一利『戦士の遺書』文春文庫、1997年。ISBN 4-16-748306-8。

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