李氏朝鮮の科挙制度

李氏朝鮮（1392年 - 1910年）において、官吏を登用するための重要な制度であった科挙について解説します。

概要

李氏朝鮮は、高麗末期の新進士大夫によって建国され、性理学を理念としていました。彼らは理想を実現するため、官吏選抜に科挙制度を導入しました。科挙は官吏登用の唯一の道であり、人々の関心を集めました。

制度は高麗のものを踏襲し、文科、武科、雑科に区分されました。特に文科は重視され、一般的に科挙と言えば文科を指すほどでした。身分制度により、賎民や庶孽は受験資格がなく、両班のみが合格の栄光を享受していました。一方で武科は身分制限が緩和され、一般庶民にも機会が与えられました。雑科は技術官僚の試験であり、中人と呼ばれる身分層を形成しました。合格者には証書が与えられ、文科合格者には紅牌が支給されました。

科挙合格者は、勤政殿で王から紅牌と御賜花を授与され、父母のための祝宴が開かれました。及第者は3日間街を練り歩き、壮元同士の集まりである竜頭会も開かれました。

1894年の甲午改革により、科挙制度は実質的に廃止されました。

科挙のための教育

科挙合格が立身出世の唯一の道であったため、教育は科挙対策に重点が置かれました。儒学は科挙の科目であり、両班によって監督されました。教育機関は、書堂、四学、郷校、成均館などがありました。書堂では儒学の基礎を学び、四学や郷校を経て成均館に進学する者もいました。成均館は最高学府でしたが、必ずしも成均館を経なくても科挙を受験できました。官学が衰退する一方で、私塾である書院が台頭しました。

科挙の手続き

文科は小科と大科に分かれ、それぞれ初試、覆試、殿試を経て合格が決まりました。武科は小科がなく、初試、覆試、殿試の3段階でした。雑科は初試と覆試の2段階でした。文科と武科は式年試以外にも臨時科挙が行われましたが、雑科は式年試と増広試のみでした。時代が下るにつれて、不正行為が横行し、科挙の権威は低下しました。賄賂や情実が合格を左右し、制度は乱れていきました。

科挙は良人以上であれば誰でも受験可能でしたが、文科では不正官吏の子弟や再婚女性の息子、庶孽の受験は禁じられていました。清要職には文科合格者のみが任官でき、庶孽は正祖の時代に訴えを起こし、一部が奎章閣の官職に就きました。

科挙の種類

科挙には、定期的に行われる式年試の他に、増広試、別試、庭試など様々な臨時科挙がありました。また、宗親科、忠良科、耆老科、外方別科などの特殊な科挙も存在しました。人材登用のための抜英試や、賢良科なども行われました。

生員科は科挙の予備試験のようなもので、合格者は生員と呼ばれました。進士科は、初級文官に任官され、成均館への入学資格を得られる試験でした。

初試は科挙の第1次試験で、覆試と殿試を受けるための選抜試験でした。殿試は、君主臨席のもと行われる最終試験でした。文科の殿試では、合格者の等級が決められ、武科の殿試では、武芸の試験が行われました。

増広試は、国の慶事の際に行われた臨時科挙で、式年試と同様の手続きで行われました。

科挙は、官職にある者にも昇進の機会を与えました。また、人材登用のための取才という制度もありましたが、昇進には制限がありました。雑科は、訳科、医科、陰陽科、律科の4科があり、技術官僚を養成しました。僧侶の資格を与えるための僧科もありました。

蔭叙は、先祖の功績や本人の学徳によって官吏に任用される制度でしたが、科挙に比べてその道は狭き門でした。

試験内容

文科の初試では、五経義や四書疑、賦、頌、銘などの筆記試験が行われ、覆試では四書三経の口述試験が行われました。殿試では、表、箋、頌などの筆記試験が行われました。武科では、講書と武芸の実技試験がありました。特に文禄・慶長の役後は鉄砲の実技が必須となりました。

脚注

この記述には、ダウムからGFDLまたはCC BY-SA 3.0で公開される百科事典『グローバル世界大百科事典』をもとに作成した内容が含まれています。

参考文献

馬越徹『韓国近代大学の成立と展開』名古屋大学出版会 1995
松本麻人、石川裕之、田中光晴、出羽孝行『現代韓国の教育を知る』明石書店 2024

李氏朝鮮の科挙制度