杜夔

杜夔（とき）

杜夔（生没年不詳）は、後漢末期から三国時代にかけて活躍した音楽家です。字は公良といい、司隸河南尹河南県（現在の河南省洛陽市付近）の出身です。

生涯

音楽に才能を発揮し、雅楽郎に任じられますが、病のため中平5年（188年）に官を退きます。その後、州郡や司徒から度々招かれるも、世の乱れを理由に荊州へと身を寄せました。

荊州では、劉表に天子のための雅楽合奏を命じられます。しかし、劉表が庭で演奏を見物しようとした際、杜夔は「天子のための合奏を庭で行うのはいかがなものでしょうか」と諫め、劉表の行動を控えさせました。

建安13年（208年）、劉表の子である劉琮が曹操に降伏すると、杜夔は軍謀祭酒に任じられ、太楽を司り、雅楽の制作に携わります。杜夔は音律に精通し、弦楽器・管楽器からなる糸竹や、八音と呼ばれる様々な楽器を演奏することができましたが、歌舞は得意ではありませんでした。当時の楽官はそれぞれ専門分野を持っていましたが、杜夔はあらゆる分野を研究し、経書や故事に基づき、講習や楽器の整備を進めました。古代の音楽が復興したのは、杜夔の貢献によるところが大きいと言われています。

黄初年間中期には、太楽令および協律都尉に任じられます。当時、柴玉という鐘の鋳造職人がおり、その創意工夫は貴人たちの間で評判でした。杜夔は柴玉に銅製の鐘を作らせましたが、音韻の清濁が基準に合わないとして、何度も作り直させました。このことを恨んだ柴玉は、杜夔が清濁の基準を独断で決めていると中傷し、強く反発しました。曹操は杜夔と柴玉の訴えを聞き、鐘の音を判別させた結果、杜夔の鑑定が正確であると判断しました。柴玉は子孫共々罪に服し、馬の養育係に落とされました。

曹丕は、柴玉を気に入っていたことに加え、以前、賓客の前で杜夔に笙・鼓・琴の演奏を命じた際、難色を示されたことを不快に思っていました。そこで、別の事を理由に杜夔を捕え、左テンらに杜夔のもとで学ばせようとしました。しかし杜夔は、「雅楽を学ぶというが、彼らは既に楽官として仕えているのだから基礎はあるはずだ」と教授に消極的な態度を示し、曹丕の不興を買います。その結果、官職を剥奪され、その後亡くなりました。

杜夔の弟子からは、邵登、張泰、桑馥らが太楽丞に、陳頏が司律中郎将にまで出世しました。後世には左延年などの優れた音楽家が現れましたが、彼らの得意とするのは鄭声と呼ばれる大衆的な音楽であり、雅楽の伝統を守り続けた杜夔には及ばなかったと言われています。

陳寿は、杜夔の音楽の才能を「玄妙な技巧、非常な絶技である」と称賛しています。

参考文献

* 『三国志』巻29 杜夔伝

もう一度検索